ご馳走さん」
海は来た時と同様、
風の様に去って行った。
カウンターには無造作に置かれた
1万円札がゆらゆらと揺れている。
「相変わらず格好良いんだよな。
あれで優しさが備われば
完璧なのに…惜しい。
まぁ、二物以上与えないで欲しいけどね」
竜兵は今度こそ鍵を掛けると
足早に寝室へと向かって行った。
海が次に向かったのは
行きつけの洒落たBAR。
この辺りは在日米軍が駐留しており
客もその関係が多い。
「あら、海」
「HEY、KAI!」
馴染みの客と簡単に挨拶を交わし、
海はマスターに声を掛けた。
「ボブは?」
「居るよ。呼ぼうか?」
「奥?」
「あぁ」
「じゃあ俺から行く」
「そう? それじゃ…」
いつもながら堂々としたものだ。
物怖じしないその性格に
マスターはいつも首を傾げる。
「抱かれに行く割には
堂々としてるよな。
所謂【誘い受け】って奴か?」
此処はそう云う場所。
男女が性別を超えて愛し合える
別の意味での【天国の扉】。
だからか、海の存在は
此処の客の中では異質だった。
「大した奴だよな」
マスターは変な所で感心し、
別の客のオーダーに答えていた。
「カイ…」
「久しぶりだな、ボブ」
「ビジネス?」
「まぁな」
「相変わらずネ」
「はは…」
海は子供の様に笑う。
ボブは裏の世界では名の知れた
超一流の武器商人である。
海との付き合いは長い。
だが、この取引は闇家業。
だからこそボブとは
セックスフレンドで通している。
「カイは面白いネ。
身体で買い物する奴、
余り知らないヨ」
「金が無いなら
身体で払うしかねぇじゃん」
「有るクセに」
「…有っても身体で払う」
「だからカイと居ると退屈しないノ」
黒色の腕がそっと海の髪を触れる。
男性でありながらも綺麗な髪質。
顔立ちも整っている事から
【その筋】には堪らない存在だろう。
「勝てれば、の話だけどサ」
「…何が?」
「ナニが」
「?」
ボブは楽しそうに海を眺めている。
そんな彼を海は呆れ顔で見返していた。
「弾丸は無登録の物、か」
資料を眺めながら
亮は溜息を吐いた。
「掃除人スナイパー。
一度たりとも同じ弾丸を使用しないな。
一つの仕事に一つの弾丸。
それで勝負をつけていく…。
まるで……」
ふと思わぬ人物の横顔が浮かび、
思わず苦笑した。
「まさか、な。
アイツはそんな男じゃない。
性格は…似ているんだろうが」
いい加減に見えてしっかりしている。
そっぽを向いている様で
実は芯を捉えている。
海のその眼差しは
子供の頃から変わらない。
「アイツも刑事になれば良かったのに。
まぁ、頭を押さえ付けられる事が嫌いな奴だから、
集団行動は向かなかったな」
パチンとライターの蓋を開け、
静かに煙草に火を点け
亮は窓に浮かぶ夜景を見つめていた。