Mercanti di armi

「さて、俺はそろそろ行く。
 ご馳走さん」

海は来た時と同様、
風の様に去って行った。
カウンターには無造作に置かれた
1万円札がゆらゆらと揺れている。

「相変わらず格好良いんだよな。
 あれで優しさが備われば
 完璧なのに…惜しい。
 まぁ、二物以上与えないで欲しいけどね」

竜兵は今度こそ鍵を掛けると
足早に寝室へと向かって行った。

* * * * * *

海が次に向かったのは
行きつけの洒落たBAR。
この辺りは在日米軍が駐留しており
客もその関係が多い。

「あら、海」
「HEY、KAI!」

馴染みの客と簡単に挨拶を交わし、
海はマスターに声を掛けた。

「ボブは?」
「居るよ。呼ぼうか?」
「奥?」
「あぁ」
「じゃあ俺から行く」
「そう? それじゃ…」

いつもながら堂々としたものだ。
物怖じしないその性格に
マスターはいつも首を傾げる。

「抱かれに行く割には
 堂々としてるよな。
 所謂【誘い受け】って奴か?」

此処はそう云う場所。
男女が性別を超えて愛し合える
別の意味での【天国の扉】。

だからか、海の存在は
此処の客の中では異質だった。

「大した奴だよな」

マスターは変な所で感心し、
別の客のオーダーに答えていた。

* * * * * *

「カイ…」
「久しぶりだな、ボブ」
「ビジネス?」
「まぁな」
「相変わらずネ」
「はは…」

海は子供の様に笑う。

ボブは裏の世界では名の知れた
超一流の武器商人である。
海との付き合いは長い。

だが、この取引は闇家業。
だからこそボブとは
セックスフレンドで通している。

「カイは面白いネ。
 身体で買い物する奴、
 余り知らないヨ」
「金が無いなら
 身体で払うしかねぇじゃん」
「有るクセに」
「…有っても身体で払う」
「だからカイと居ると退屈しないノ」

黒色の腕がそっと海の髪を触れる。
男性でありながらも綺麗な髪質。
顔立ちも整っている事から
【その筋】には堪らない存在だろう。

「勝てれば、の話だけどサ」
「…何が?」
「ナニが」
「?」

ボブは楽しそうに海を眺めている。
そんな彼を海は呆れ顔で見返していた。

* * * * * *

「弾丸は無登録の物、か」

資料を眺めながら
亮は溜息を吐いた。

「掃除人スナイパー。
 一度たりとも同じ弾丸を使用しないな。
 一つの仕事に一つの弾丸。
 それで勝負をつけていく…。
 まるで……」

ふと思わぬ人物の横顔が浮かび、
思わず苦笑した。

「まさか、な。
 アイツはそんな男じゃない。
 性格は…似ているんだろうが」

いい加減に見えてしっかりしている。
そっぽを向いている様で
実は芯を捉えている。
海のその眼差しは
子供の頃から変わらない。

「アイツも刑事になれば良かったのに。
まぁ、頭を押さえ付けられる事が嫌いな奴だから、
集団行動は向かなかったな」

パチンとライターの蓋を開け、
静かに煙草に火を点け
亮は窓に浮かぶ夜景を見つめていた。
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