黄金で出来たペンダント。
これは亮が孤児院を去るその日に
俺と亮に与えられた物。
この広い世界、数数多居る人間の中でも
俺と亮しか手にしていない物だ。
「La felìcità del nostro bambino è chiesta…」
「何て言ったの?」
俺の呟きに台所から反応する。
あの女は流石に悪魔、耳が人間よりも善いときた。
しかし、その意味は理解出来ないだろう。
日本語以外サッパリだと言っていたから。
「独り言だ」
「あっそ」
「飯は?」
「出来たわよ。今からそっちに運ぶから」
「あぁ、じゃあ起きる」
ベッドから体を起こす。
また、ペンダントがチャリーンと音を立てた。
「貴方達の絆が今以上に強く結び付きます様に」
亮の新しい母親はそう言って
このペンダントを二人の子供、海と亮の首に掛けた。
「英語?」
「あら、海君は語学に興味有るのね」
「うん」
「そう。でもこれは英語じゃないの。
イタリア語なのよ」
「イタリア語なんだ…」
「そうよ。世界にはもっと色んな言葉が有るの。
覚えると楽しいかも知れないわ」
「面白そうだよね」
海はペンダントに刻まれた言葉が気になるらしい。
何度もタグ部分を見つめている。
「どう云う意味なの?」
「それはね…」
一瞬、彼女は逡巡した。
その意味を正しく知れば知る程、
特に海にこの言葉の意味を教える事に
躊躇いが生じてしまうのだ。
「『貴方達に幸せを齎します様に』ですよ」
助け舟を出したのは院長だった。
いつもの優しい笑顔を浮かべ
海を見つめている。
「じゃあ、俺と亮にって事?」
「そうですよ。だから先程仰ったんです。
『貴方達の絆が今以上に強く結び付きます様に』と」
「そうか。そう云う意味なんだ!
ありがとう、おばさん! 俺、大切にするよ!」
今思えば、院長にまんまと一杯喰わされた訳だ。
あの人はこう云う女狐めいた事をしでかすから
一緒に居ても飽きない存在だった。
今の俺ならこの文言の意味が解る。
彼女の叶わなかった願いが。
「何時見てもさぁ~」
「?」
「綺麗よね、そのペンダント」
「良いだろ。やらねぇぞ」
「要らないわよ、別に。
誰に貰ったの? それ」
「…最高に良い女から」
「あっ、そう!」
そう。最高に良い女だった。
だからこそあの泣き虫亮を
立派な一人前の男に育て上げたって事だ。