Ciondolo d'oro

俺の胸の上でチャリンと音を立てて踊る
黄金で出来たペンダント。
これは亮が孤児院を去るその日に
俺と亮に与えられた物。
この広い世界、数数多居る人間の中でも
俺と亮しか手にしていない物だ。

「La felìcità del nostro bambino è chiesta…」
「何て言ったの?」

俺の呟きに台所から反応する。
あの女は流石に悪魔、耳が人間よりも善いときた。
しかし、その意味は理解出来ないだろう。
日本語以外サッパリだと言っていたから。

「独り言だ」
「あっそ」
「飯は?」
「出来たわよ。今からそっちに運ぶから」
「あぁ、じゃあ起きる」

ベッドから体を起こす。
また、ペンダントがチャリーンと音を立てた。

* * * * * *

「貴方達の絆が今以上に強く結び付きます様に」

亮の新しい母親はそう言って
このペンダントを二人の子供、海と亮の首に掛けた。

「英語?」
「あら、海君は語学に興味有るのね」
「うん」
「そう。でもこれは英語じゃないの。
 イタリア語なのよ」
「イタリア語なんだ…」
「そうよ。世界にはもっと色んな言葉が有るの。
 覚えると楽しいかも知れないわ」
「面白そうだよね」

海はペンダントに刻まれた言葉が気になるらしい。
何度もタグ部分を見つめている。

「どう云う意味なの?」
「それはね…」

一瞬、彼女は逡巡した。
その意味を正しく知れば知る程、
特に海にこの言葉の意味を教える事に
躊躇いが生じてしまうのだ。

「『貴方達に幸せを齎します様に』ですよ」

助け舟を出したのは院長だった。
いつもの優しい笑顔を浮かべ
海を見つめている。

「じゃあ、俺と亮にって事?」
「そうですよ。だから先程仰ったんです。
 『貴方達の絆が今以上に強く結び付きます様に』と」
「そうか。そう云う意味なんだ!
 ありがとう、おばさん! 俺、大切にするよ!」

* * * * * *

今思えば、院長にまんまと一杯喰わされた訳だ。
あの人はこう云う女狐めいた事をしでかすから
一緒に居ても飽きない存在だった。

今の俺ならこの文言の意味が解る。
彼女の叶わなかった願いが。

「何時見てもさぁ~」
「?」
「綺麗よね、そのペンダント」
「良いだろ。やらねぇぞ」
「要らないわよ、別に。
 誰に貰ったの? それ」
「…最高に良い女から」
「あっ、そう!」

そう。最高に良い女だった。
だからこそあの泣き虫亮を
立派な一人前の男に育て上げたって事だ。
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