Incontro del destino

忘れられない女ならもう一人いる。
いや、正確には『居た』だ。
彼女の存在が今の俺を構築したと言っても過言じゃない。
それ位、デカい存在の女だった。

【都会の掃除屋】と呼ばれた凄腕のスナイパー。
彼女との出会いは突然だった。

* * * * * *

孤児院の立ち退き話が出たのは
亮が養子に貰われてから5年後の事。
余りにも急な話で、尚且つ代案すら無い。
文字通り『追い出す為』としか思えなかった。

17歳になっていた俺は院長が止めるのも聞かず
問題とされる不動産会社に直談判に行った。
勿論、話に等なる筈は無かったし…
止めよう。思い出しても吐き気がするだけだ。

ボロボロの風体で事務所ビルを後にした俺に
声を掛けてきたのが彼女、ユウだった。
今思っても不思議な出会いが有るものである。

「随分な恰好じゃない。
 そんな姿で街を彷徨ってたら危ないわよ」
「?」
「アタシの所に来ない?
 傷の手当て位は出来るし、服も用意するわ」
「……」
「突然こんな事話し出すから警戒してる?」
「…うん」
「正直ね。益々気に入ったわ」

ユウの態度は全く変わらない。
優しい笑みを浮かべたままだ。
俺の警戒心も少しずつだが解れてきた。

「近所、なの?」
「アタシの家? 少し離れてるかな」
「じゃあ…行く」

此処でごねてたって仕方が無いし
第一このままじゃ帰れっこない。
何が遭ったのか、この様子を見れば
大人ならきっと察しが付く。

「良い返事ね。それじゃ行きましょう。
 いつまでもこんな所に居たくないでしょ?」

彼女は何も言わなくても
俺の気持ちを理解してくれているようだ。
つくづく、不思議な女だと思った。

* * * * * *

「あぁ、遠慮しないで入って!
 直ぐに御飯の用意するから。
 っとは言っても、作るのは私じゃないんだけどね」
「…作らないの?」
「下手なのよ。味覚音痴って奴。
 でも安心して。
 作ってくれる人は物凄く料理上手だから」

彼女はそう言いながら上着を脱ぐとベッドに投げ捨てる。
そのまま奥の部屋、台所だろうか…へと向かった。

「Bob! I'm home~(ボブ、只今)!
 Give me make a fast dinner,please
 (早く晩御飯を作って頂戴)!」
「Welcome back, Yuh(お帰り、ユウ)!
 Wait a minute though…Yup
 (一寸待ってて…ん)?」

ボブと呼ばれた男が台所から姿を現す。
2メートル近くある高身長と筋肉質の黒人。
タンクトップにジーンズ姿の出で立ちは
鍛え上げられた肉体を余すところなく見せつける。
男の俺でも惚れ惚れとする鍛え上げられた男の姿だった。
この2人はどう云う間柄なんだろうかと
俺は不思議そうな顔でユウとボブを見つめていた。
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