確かにボブの手料理は今迄食った物の中でも
最高の味付けだった。
鱈腹飯を食わせてもらい、シャワーを浴びると
途端に睡魔に襲われ、其処で俺の記憶は一旦閉じている。
「珍しいネ。ユウが誰かを連れテ来るノ」
「そうかもね。何年ぶりかしら」
「放っておけなかっタ?」
「…えぇ」
「まさか街中で【再会】すルとは…」
「ボブ」
ユウは厳しい口調でそれ以上を発言を遮る。
ボブもその意味を正確に理解するからこそ
謝罪こそは無かったが、彼女の意志に従った。
「この子の事は…Tにも診せないと」
「Tに? Why(何故)?」
「【Gemini(双子座)】とは言わないけど」
【Gemini】の単語を耳にし、ボブは明確に嫌悪感を見せた。
ユウは肯定する様に頷く。
「All right Yoh(解ったヨ、ユウ).
I'll call T in here(僕がTを呼んでおク)」
「Thanx Bob(ありがとう、ボブ).
Clean the near future also the city
(近々また街の掃除ね)」
意味深な二人の会話。海の耳には何も届いていない。
今はまだその方が幸せだったのだろう。
「この味付け…」
「あ、気付いた? ボブに習ったの」
「成程な」
「マスターが好きな味だって」
「そんな事を?」
「そうよ」
「くだらない事だけは覚えてるんだな、ボブの奴」
「くだらない?」
「あぁ。くだらねぇよ、俺の過去なんざ」
「良いじゃない、過去が有るだけ」
「悪魔は無いのかよ?」
「どうかしらね。無いも同然だと思うけど」
「へぇ…」
温かいシチューを胃に流し込みながら
海は更に言葉を続けた。
「俺は正直『無い方が幸せ』だと思うぜ。
くだらない過去なんてさ」
「全てがくだらない?」
「全て…では無いがな。
今を肯定する為だけに過去に縋るのは
みっともねぇとは思ってる」
「マスターってさ、生き方不器用って言われない?」
「よく言われた」
「でしょ。足掻くのってそんなに惨め?」
「俺は惨めだと思ってる」
「随分割り切ってんのね」
「まぁな」
「人間離れしてる筈だわ。
其処迄割り切れるって奴、なかなか居ないかも」
「お前が人間に近過ぎるだけだろ」
ポンポンと反論はしてくるが
その言葉のどの位が海の【本音】なのだろうか。
『その惨めさに耐え切れないと解ってるからこそ
敢えて切り離そうとしてるのかもね。
だって【都会の掃除屋】に情は禁物だもの』
海が見せない本音と見えない過去。
口には出さないが紗羅は強い関心を示していた。