Conversazione privata

ユウの言葉に嘘は一片も無かった。
確かにボブの手料理は今迄食った物の中でも
最高の味付けだった。

鱈腹飯を食わせてもらい、シャワーを浴びると
途端に睡魔に襲われ、其処で俺の記憶は一旦閉じている。

* * * * * *

「珍しいネ。ユウが誰かを連れテ来るノ」
「そうかもね。何年ぶりかしら」
「放っておけなかっタ?」
「…えぇ」
「まさか街中で【再会】すルとは…」
「ボブ」

ユウは厳しい口調でそれ以上を発言を遮る。
ボブもその意味を正確に理解するからこそ
謝罪こそは無かったが、彼女の意志に従った。

「この子の事は…Tにも診せないと」
「Tに? Why(何故)?」
「【Gemini(双子座)】とは言わないけど」

【Gemini】の単語を耳にし、ボブは明確に嫌悪感を見せた。
ユウは肯定する様に頷く。

「All right Yoh(解ったヨ、ユウ).
 I'll call T in here(僕がTを呼んでおク)」
「Thanx Bob(ありがとう、ボブ).
 Clean the near future also the city
 (近々また街の掃除ね)」

意味深な二人の会話。海の耳には何も届いていない。
今はまだその方が幸せだったのだろう。

* * * * * *

「この味付け…」
「あ、気付いた? ボブに習ったの」
「成程な」
「マスターが好きな味だって」
「そんな事を?」
「そうよ」
「くだらない事だけは覚えてるんだな、ボブの奴」
「くだらない?」
「あぁ。くだらねぇよ、俺の過去なんざ」
「良いじゃない、過去が有るだけ」
「悪魔は無いのかよ?」
「どうかしらね。無いも同然だと思うけど」
「へぇ…」

温かいシチューを胃に流し込みながら
海は更に言葉を続けた。

「俺は正直『無い方が幸せ』だと思うぜ。
 くだらない過去なんてさ」
「全てがくだらない?」
「全て…では無いがな。
 今を肯定する為だけに過去に縋るのは
 みっともねぇとは思ってる」
「マスターってさ、生き方不器用って言われない?」
「よく言われた」
「でしょ。足掻くのってそんなに惨め?」
「俺は惨めだと思ってる」
「随分割り切ってんのね」
「まぁな」
「人間離れしてる筈だわ。
 其処迄割り切れるって奴、なかなか居ないかも」
「お前が人間に近過ぎるだけだろ」

ポンポンと反論はしてくるが
その言葉のどの位が海の【本音】なのだろうか。

『その惨めさに耐え切れないと解ってるからこそ
 敢えて切り離そうとしてるのかもね。
 だって【都会の掃除屋】に情は禁物だもの』

海が見せない本音と見えない過去。
口には出さないが紗羅は強い関心を示していた。
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