Mitarbeiter

「…くっ」

珍しくユウが怪我をして帰って来た。

「ユウ!」
「声、落として。
 …大した事無いわ」

ボブの表情は重い。

「西のスナイパーに撃たれたネ」
「西の…?」

忌まわしき男。
海の血が逆流する。
この手で…殺めたい奴。

「Tを呼んで…」
「OK」

ボブは素早くダイヤルを掛ける。

「貴方も…会った方が良い。
 口は悪いし金に汚いけど…
 腕の良い外科医よ」

* * * * * *

10分後。

無精髭を生やした男が
閉店のバーを訪ねて来た。

この男が【Dr.T】。
深い色のサングラスで
目の表情が見えない。

「油断したのかい、マドンナ?」
「…否定はしないわ」
「あのボウヤがアンタを狂わせたか」
「あの子は後継者よ」
「ふ~ん。
 じゃあ未来のビジネスパートナーだね」
「優しくしてやって。
 アタシの遺言だと思って…」
「ユウ!」

海は思わず叫んでいた。

聞きたくない。
そんな言葉など。

「この程度の怪我じゃ死なねぇよ。
 そん位解るだろ、阿呆」
「五月蝿ぇ、藪医者!」
「ほぅ…」

Tは海の目の前でメスをちらつかせた。

「良い根性してるじゃねぇか。
 気に入ったぜ、ボウズ」
「…海だ」
「海。覚えておこう」

Tはその場で外科処置を行った。
麻酔も無く、撃たれた腕を切り
弾丸を取り出す。
後は素早く縫って止血を済ませる。
神業的な速さだった。

* * * * * *

「…ま、ザッとこんなもんだ」
「恩に着るわ、T…」
「暫くは安静にしてろ。
 西の奴は情報屋に探らせれば良い」
「奴は俺が殺る…」

海は並々ならぬ意思を表した。

「海…」
「奴には苦汁を舐めさせられてる。
 だから俺が…」
「殺るのは勝手だが、
 お前の腕じゃ返り討ちが関の山だな」
 
Tは冷静にそう告げた。

「人殺した経験、有るのか?」
「…無い」
「なら話にならねぇ。
 西は人の血肉を食らう化け物の様な男だぜ」
「…だから力を付けてる」
「未来形だね。
 何年後かの夢か…」

「T…」

それまで口を閉ざしていたユウが
静かに語った。

「西は海に獲らせるわ。
 彼自身の為にね。
 そう遠くない将来の話よ」
「…ほぅ。自身有るみたいだな」
「有るわ。私の秘蔵っ子だもの」

ユウは優しく海を抱き締め、キスをした。

「私の全てをこの子にあげるの」
「惚れたか?」
「多分ね…」

ユウの微笑みは何かを悟っていた。

自分はきっと西に消されるだろう。
だが、自分の思いは海に託した。
だからこの世に未練は無い。
そう言いたげな表情。

Tもボブも理解していた。
幸いな事に、
海にはその意味が伝わっていなかった。
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