das Geheimnis des Mannes

「声、聞かせて」
そっと寝入っている旦那の耳に囁く。

返事が無いのは解っているけれど。

「本当の、声…聞かせて」
聞きたいのは貴方の心の声。

何を思っているのか。
何を感じてるのか。
私の知らない裏の貴方を
知りたいと思うのは私のエゴ?

唇をそっと噛み締め、
私も眠りに付く。

いつか、きっと…教えてくれるよね。
笑いながら
「こんな事があったんだ」って。
温かい珈琲を囲んで
クッキーを頬張りながら。

その日が来るのを
私、待ってるから…。

* * * * * *

あずきはボンヤリした目で
朝食の準備をしていた。
どうも変な夢を見ていたらしく
現実と夢の境界が定かではない。

「何…言ってたんだろう?」
夢の中で自分が囁いた言葉。
その相手。
今はボンヤリとしか思い出せない。

「う~ん…」
「おはよう、あずちゃん」
そっと頬にキスされ、
漸くあずきは覚醒した。

「お…おはよ、竜ちゃん」
「朝から考え事?」
「う…ううん。違うよ」
「そう。なら良いけど…」

竜兵は少し眉を寄せ、
困った顔であずきを見つめる。

「どうしたの?」
「あのさ、あずちゃん。
 今日、店番頼める?」
「良いけど…お仕事?」
「うん…一寸ね」
「そう。解った」

裏家業については口を一切挟まない。
あずきはそう一人誓っていた。
竜兵の重荷にはなりたくない。
尽くす女の典型だ。

「ありがと…」
それを知っているからか、
照れ臭そうに竜兵は
あずきの唇にキスを落とした。

* * * * * *

いつもあずちゃんには辛い思いさせてる。
でも…表家業だけじゃ
食べていけないのも事実。

裏の仕事は危険だけど
それだけに報奨が魅力的なんだ。
海さんはその辺ケチじゃないから
安心出来るビジネスパートナーかも。
…一寸怖いけどね。

何時まで続くか解らないけど、
この仕事は当分続けるつもり。
半端で辞めるのは性に合わないし
何より、夢があるからね。

夢を叶える為にも辞められない。
二人で幸せな生活を送る為に。
この喫茶店を守る為に。

僕も戦ってるよ、あずちゃん。
きっと近い内に叶うはずだから。
僕達の夢。
だから…暫くの間、我慢してね。

必ず幸せにするよ。
僕が、あずちゃんを。
必ず…きっと…。

そろそろ時間だ。
さてと、格好は決まってるし
出掛けるとするか。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」

君の見送りのキスを受け、
僕は僕の戦場に向かう。
必ず幸せを掴む為に。
僕達二人の幸せの為に…。
Home Index ←Back Next→