Waisenfreundschaft

「そんな顔するな、止まらなくなる」

涙を流す親友に、
そっと海はそう告げた。
海の目もまた涙で滲んでいた。

「また…会えるよな?」
「…会えるさ」

二人は固い握手を交わした。
二人の思い出の地で、
二人だけの儀式は終わった。

* * * * * *

「転寝していたか」

亮はそう言うと水を飲む為に起き上がった。
ソファがギシッと軋む。

「…アレから何年経ったんだろうな」

ふと思い出に浸る。
再会したこの街で
二人はアレから大分変わっていた。

義理の父親の影響も有ってか
亮は警察官になる事を夢見た。
そして今、念願の職に就いている。

ずっと孤児院に残っていると思っていた海が
この街に居た事を知ったのはつい最近だ。

突然途切れた文通。
不安だった。

院長は彼の今を知っているのかと尋ねたら
『教える必要は無い』と断られた。

「どうして…?」
「俺はもう大人だ。自立出来る年だ」

確かにお互い20歳は当に超えていたし
反論する気も起きなかった。

「へぇ…刑事」
「あぁ。義父ちちの職業が刑事だからね。
 俺も…」
「そうか…」
「海は?」
「探偵、やってる。…何でも屋か」
「お前、器用だもんな」
「…まぁ、な」

照れ臭そうに海は目線を反らす。
こんな所は変わっていない。
子供の頃のままだ。

「海…」
「ん?」
「また…会えるか?」
「何時でも会える」

海はゴソゴソと一枚の紙を取り出した。

Ufficio detective@KAI

「名刺か…」
「あぁ」
「…イタリア語?」
「そうだ。
 【海探偵事務所】じゃ色気が無いだろ?」
「…洒落てるな」
「まぁ、な」

海はこう見えて語学が流暢だ。
勉学に励むタイプだった。
勿論、そんな姿を他には見せない。
亮だけが知る、海だった。

* * * * * *

まだ夜は明けない。

「…もう少し寝るか」

亮は寝巻きに着替え、
ベッドに向かった。

両親と離れ、一人暮らしをするのも慣れた。
仕事は激務だが充実感がある。
帰ってきて、眠るだけの部屋。

「…お休み」

誰に言う事無く、そう呟き
亮はやがて深い眠りに落ちた。
疲れた体を労わる様に。

懐かしいあの夢をもう一度見たい。
懐かしい友との楽しい思い出。

「海…」

夢の中の海の笑顔が忘れられない。
大人になって見せなくなった
無邪気ではにかんだ笑顔。

あの笑顔に又会いたい。

亮の寝顔は穏やかなものに変わっていた。
少年の様な寝顔。

夢の中で再会出来たのだろうか。
あの頃の二人に。
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