Scene・10

File・1

「寂しそうだね」

事務所に上がり込んだ詐欺師、
いや…自称私立探偵に
未津流は苦笑を浮かべている。

「まぁ、これで良いんだ。
 千尋ちゃんも漸く
 素敵な毎日を過ごせてるんだし」
「あの笑顔、最高だったね」
「そうだねぇ…」

何処と無く未津流に元気が無いのも
仕方が無い事かも知れない。
誰よりも千尋の幸せを願っていたのは
このお節介な同居人だっただろうから。

「失恋気分?」
「そうだね。それに近い」
「じゃあ失恋記念として
 一緒に遊ぼうか?」
「何、お前さん。
 俺の高尚な趣味に付き合うの?」
「付き合いますか?」
「何故疑問系なの…」
「いえ、何となくね」

鷲汰はそう言うと
笑いながら自分の胸を指差した。

「用意してるから」
「ほう、準備良いね」

未津流も笑顔を取り戻し
自分の作業用机に向かった。

* * * * * *

「…またか」

溜息を吐きながら
拓馬は視線を向ける。

地上げ屋は当然の事ながら
この場所を諦めてはいないだろう。
隙を見計らって
また脅しに来るに違いない。

「此処は俺にとって
 大切な場所なんだから。
 絶対に明け渡したりしないぞ」

心の中でガッツポーズをしながら
拓馬は表情を営業用に切り替えた。

* * * * * *

「ん?」

珍しく留守番電話のライトが点灯している。
璃虎は首を傾げながら
伝言を再生した。

『で、報酬はどうなるの?
 俺をタダ働きさせるつもりは
 無いよね、勿論』

「間違えてる…」

伝言先の声の主は直ぐに判った。
そして、本来の相手の事も。

「俺は一円も払わないから」

笑みを浮かべながらメッセージを削除し
璃虎は白衣をハンガーに掛けた。

「メインはこっちだからさ。
 急患じゃなけりゃ
 大抵は間違い電話だし」

そう呟きながら
彼は愛用の携帯電話を取り出した。
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