事務所に上がり込んだ詐欺師、
いや…自称私立探偵に
未津流は苦笑を浮かべている。
「まぁ、これで良いんだ。
千尋ちゃんも漸く
素敵な毎日を過ごせてるんだし」
「あの笑顔、最高だったね」
「そうだねぇ…」
何処と無く未津流に元気が無いのも
仕方が無い事かも知れない。
誰よりも千尋の幸せを願っていたのは
このお節介な同居人だっただろうから。
「失恋気分?」
「そうだね。それに近い」
「じゃあ失恋記念として
一緒に遊ぼうか?」
「何、お前さん。
俺の高尚な趣味に付き合うの?」
「付き合いますか?」
「何故疑問系なの…」
「いえ、何となくね」
鷲汰はそう言うと
笑いながら自分の胸を指差した。
「用意してるから」
「ほう、準備良いね」
未津流も笑顔を取り戻し
自分の作業用机に向かった。
「…またか」
溜息を吐きながら
拓馬は視線を向ける。
地上げ屋は当然の事ながら
この場所を諦めてはいないだろう。
隙を見計らって
また脅しに来るに違いない。
「此処は俺にとって
大切な場所なんだから。
絶対に明け渡したりしないぞ」
心の中でガッツポーズをしながら
拓馬は表情を営業用に切り替えた。
「ん?」
珍しく留守番電話のライトが点灯している。
璃虎は首を傾げながら
伝言を再生した。
『で、報酬はどうなるの?
俺をタダ働きさせるつもりは
無いよね、勿論』
「間違えてる…」
伝言先の声の主は直ぐに判った。
そして、本来の相手の事も。
「俺は一円も払わないから」
笑みを浮かべながらメッセージを削除し
璃虎は白衣をハンガーに掛けた。
「メインはこっちだからさ。
急患じゃなけりゃ
大抵は間違い電話だし」
そう呟きながら
彼は愛用の携帯電話を取り出した。