Scene・4

File・1

「…成程、ストーカーねぇ」

未津流は静かに頷きながら
依頼人である女優の話を聞いている。

「で、ターゲットは貴女、と…」
「いえ」
「ん?」

「私じゃなくて…娘を」
「娘さん?」
「えぇ、娘の千尋(ちひろ)を」

未津流に仕込んだ盗聴器から
鷲汰達は依頼内容を聞いていた。

「何で直接聞かないの?」
「恥ずかしいから…」
「面倒臭いんだろう?
 金出して依頼人の所に行くのが」
「璃虎……」
「図星か、鷲汰さん……」

拓馬が呆れ返るものの
鷲汰は何処吹く顔である。

「莫迦たれが…」

イライラ上昇中な璃虎と能天気な鷲汰に挟まれ
拓馬は気が気でない。

この二人、何故か顔を合わせる度にこの調子である。

「それで…娘さんを護衛とは
 どう云った内容で…?」

未津流は少しずつ話を進めていく事にした。
この辺りは流石現役弁護士。
手馴れたものである。

「実際問題。
 どうやって現役の女子高生をガードするの?」
「…考え中」

鷲汰はじっと耳を傾け、
未津流と女優の話を聞いている。

「この母親、ストーカーの正体知ってるのかな?」
「どうして?」
「妙に犯人像の説明が丁寧じゃない?
 俺に気の所為なら良いけど」

鷲汰の勘は侮れないものがある。
何か納得出来ない事が有ると
とことんまで拘る。

それが危険を回避する事も数知れず。

「もう暫く話を聞いてみて、
 後でテープ使って聞き直そう」
「……」

璃虎は呆れた感じで鷲汰を見ている。

「未津流さん…
 巧く聞き出してくれよ~~~」

鷲汰がワザとらしく盗聴器に両手を合わせ、
拝み始めた。

「莫迦か」
「璃虎さん、手厳しいね」

璃虎は欠伸を一つすると、
そのまま椅子の上で転寝を始める。

「緊張感が有りませんね。
 相変らず……」

拓馬は苦笑を浮かべ、
毛布を探しに部屋の奥へと消えた。

* * * * * *

「誰?」

学校帰り、校門で待つ未津流に対して
少女が放った一言。
ショートヘアの良く似合う美少女だ。
流石に母親が女優だけある、と云う事か。

「俺? 俺は【白馬の王子様】だよ」
「王子様?」

大きな目を見開き、少女は未津流を見つめる。

「随分お年な王子様…」

少女はくすくすと笑い出した。

「名前は何て言うの、王子様?」
「【未津流】君、と呼んでくれれば良いよ」
「未津流君……」

少女は嬉しそうに微笑んでいる。
未津流の事はどうやら気に入った様だ。

「じゃあ…未津流君。
 私と友達になる?」
「勿論」

「私はね、…千尋」
「千尋姫ですか…」
「千尋で良いよ……」

少女、千尋は頬を淡く朱に染めて
未津流を見つめていた。
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