適当に野菜を見繕って来いとの事だ。
「料理でもするんですか?」
拓馬は苦笑し、鷲汰は力一杯頷く。
「美味い野菜料理が食いたくなってね。
折角だったら、新鮮な野菜を手に入れたいし」
「鷲汰さん、ツケ溜まってますよ。…かなり」
「報酬が入ったら纏めて払う」
「払った例が無いじゃないですか」
仕方が無いな、と拓馬は笑う。
この大らかさが、彼の店の人気の元。
代々培われてきた資質。
「良い若旦那だよ、全く…」
鷲汰の言葉に対し、拓馬は嬉しそうに
色取り取りの新鮮な素材を提供した。
「未津流君…」
千尋が不安そうな目で未津流の事務所を訪ねて来た。
何か有れば遠慮無く来たら良いと
伝えてあったからだ。
「いらっしゃい、千尋ちゃん」
「御免ね、こんな時間に。
迷惑じゃなかった?」
時計は次の日時を知らせる鐘を鳴らそうと
針を進めていた。
「迷惑だなんてとんでもない。
こっちとしては大歓迎だ」
「良かった……」
未津流は先程から千尋の荷物を確認していた。
何かが起こったと思わせる大荷物。
「外、寒くなかったか?
何か温まる物でも用意するよ」
「…未津流君」
千尋はそれまで我慢していたのだろう。
大きな瞳からポロポロと
涙を溢れさせた。
「まさかお前の手を借りる事になるとは…」
鷲汰は拓馬と別れた直後、
とある場所に電話を入れていた。
『態々連絡を入れて来ると云う事は…
多少厄介なヤマ?』
「大物が絡んで来てるんでね」
『成程……』
電話口の相手は何かを思案している。
『詳しい内容は直接会って聞くよ』
「じゃあ…」
『まだ受けるとは答えてないからな』
鷲汰の先走った考えに牽制すると
その人物は笑い声を上げた。