Scene・6

File・1

鷲汰は突然拓馬を呼び出した。
適当に野菜を見繕って来いとの事だ。

「料理でもするんですか?」

拓馬は苦笑し、鷲汰は力一杯頷く。

「美味い野菜料理が食いたくなってね。
 折角だったら、新鮮な野菜を手に入れたいし」
「鷲汰さん、ツケ溜まってますよ。…かなり」
「報酬が入ったら纏めて払う」
「払った例が無いじゃないですか」

仕方が無いな、と拓馬は笑う。

この大らかさが、彼の店の人気の元。
代々培われてきた資質。

「良い若旦那だよ、全く…」

鷲汰の言葉に対し、拓馬は嬉しそうに
色取り取りの新鮮な素材を提供した。

* * * * * *

「未津流君…」

千尋が不安そうな目で未津流の事務所を訪ねて来た。
何か有れば遠慮無く来たら良いと
伝えてあったからだ。

「いらっしゃい、千尋ちゃん」
「御免ね、こんな時間に。
 迷惑じゃなかった?」

時計は次の日時を知らせる鐘を鳴らそうと
針を進めていた。

「迷惑だなんてとんでもない。
 こっちとしては大歓迎だ」
「良かった……」

未津流は先程から千尋の荷物を確認していた。
何かが起こったと思わせる大荷物。

「外、寒くなかったか?
 何か温まる物でも用意するよ」
「…未津流君」

千尋はそれまで我慢していたのだろう。
大きな瞳からポロポロと
涙を溢れさせた。

* * * * * *

「まさかお前の手を借りる事になるとは…」

鷲汰は拓馬と別れた直後、
とある場所に電話を入れていた。

『態々連絡を入れて来ると云う事は…
 多少厄介なヤマ?』
「大物が絡んで来てるんでね」
『成程……』

電話口の相手は何かを思案している。

『詳しい内容は直接会って聞くよ』
「じゃあ…」
『まだ受けるとは答えてないからな』

鷲汰の先走った考えに牽制すると
その人物は笑い声を上げた。
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