Scene・7

File・1

急な呼び出しで
さぞかしご機嫌斜めと思いきや、
意外と普通の対応に
鷲汰は1人驚きを隠せなかった。

「璃虎…どうしたの?」
「別に何も。どうして?」
「……」

此処でハタと気が付く。

「な~るほどね」
「?」

「タッちゃん、来てるんだ」
「!!」

「直ぐに判るんだよな。
 本当、タっちゃんが来ると
 お前の機嫌良いモンね」
「……」

反論して来ないのは
多少なりとも自覚があるからだろうか。

「で、タッちゃんは何時迄
 コッチに居るんだ?」
「明日の朝には出発するってさ」

「なぁ、璃虎」
「ん…」
「一緒には、行かないのか?」
「……」

「かなり昔からその話は有っただろう?
 でもお前が結局この地に留まってはや2年。
 もう…2年になるんだな」
「竜彦が何か言って来たのか?」
「いや…」

璃虎の声から少しずつ
元気や明るさが小さくなっていく。
鷲汰はそれを察し、
珈琲を飲む為に台所へと向かった。

* * * * * *

「そうか、家出したかったんだ」

未津流は珈琲を飲みながら
千尋の話を真剣に聞いていた。

初めて会った時に感じた彼女の孤独な雰囲気。
事情を知れば納得である。

「お母さん…。
 いつも若い男の人を連れて来るの。
 私、その度にずっと
 部屋の中で隠れてるんだけど…
 時々物凄くノックしてきたりして…」
「随分と躾のなってない客人だね」

口調は穏やかなのだが、
未津流の表情にはかなりの怒気が含まれていた。

『母親の愛人が性的危害を加える為に
 彼女の部屋を訪れて来てたって仮定出来るな。
 もしそうだとすると…
 確かに、家に居たんじゃ危険なだけだ』

この手の案件は事件にならないと
なかなか警察を動かす迄に至らない。
しかし、悠長にそれを待つ訳にはいかない。

未津流は一つ、大きく動く事にした。

「千尋ちゃん」
「何、未津流君?」

「君、ずっと此処に居なさいよ。
 鍵を渡しておくから」
「…良いの?」
「勿論。
 今日から此処が君の【家】だ」

千尋は目を見開いて驚いていたが
それが夢では無い事を理解すると
再び大粒の涙を溢れさせた。

「未津流君…有難う……」

千尋の訴え、悲鳴は
シッカリと未津流に届いていた。

それをお互いに確認し、
安堵の息を同時に吐く。
そのタイミングの良さに
2人は思わず吹き出していた。
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