Scene・8

File・1

数日後の某所。
云わずと知れた、古びたビルの一室。

「やはりそうか…」

集められた資料にザッと目を通し、
鷲汰は不気味に微笑を浮かべた。

自分が予想していたものと
余りにもピッタリな回答だったからだ。
ピッタリ過ぎて正直、面白みも足りない。

「何がストーカーだよ。
 テメェの捨てた元旦那が
 娘を心配してただけじゃねぇの」

「娘を取られるのが怖かったんじゃないのか?」
「何で又?
 ちゃんと養育出来てないっつーの」

どうやら鷲汰には理解出来ない世界の様だ。

「世間体とか、知名度とか。
 そう云う事だけは気にしそうじゃないか」
「…つまんね」

「とにかく、この父親が鍵だな。
 此方はキチンとコンタクトを取った方が良い。
 千尋ちゃんの護衛の為にも」

「それはお前に任せるわ、璃虎」
「偶にはお前が率先して働け…」
「俺が行っても良いの?
 纏まる話も破談になるぜ」
「変な自信付けるな…」
「事実だも~~~ん」
「…解った、俺が行く……」

璃虎は溜息を吐きながらも
渋々了承した。

「愛してるぜ、璃虎!」
「お前からの愛だけは
 絶対に要らん……」

「そうそう、そう言えばさ。
 結構ハンサムだったぜ、彼女の父親」
「………」

意味深な笑みを浮かべる鷲汰に対し
璃虎はかなりあからさまに
盛大に深い溜息を吐いていた。

* * * * * *

「済まないな、付き合わせて…」

璃虎はそう言うと盛んに頭を掻いている。

「気にしないで下さいよ。
 今日は店も休みだったし」
「そう云う時こそ、
 ゆっくり体を休めれば良いのに…」

「璃虎さんは普段も多忙じゃないですか。
 俺とは違うんですから」
「拓馬…」
「俺はこう見えて頑丈ですからね!」

拓馬はそう言うと嬉しそうに珈琲を味わう。

「でも…意外だったな」
「何が?」

「璃虎さんって…鷲汰さんと
 同い年だったんですね」
「腐れ縁と云うか…幼馴染。
 同級生で、昔から振り回された」
「今でも?」
「今でも」

昔を語る璃虎は普段よりも穏やかで
拓馬はそんな彼を見るのが好きなのだ。

「当時から頭良かったんですか?」
「さぁ…。自分の事はよく判らないし」
「鷲汰さんは?」
「カンニングと遅刻と早弁はダントツだ」
「褒めて無いし…」
「褒めようが無い」

璃虎は珈琲カップに口を付けようとしたが
不意に何かを見つけたのか
そのまま皿に戻した。

「どうかしました?」
「…御対面だ」

短くそれだけを告げると
慣れた感じで彼は立ち上がり、
ターゲットの傍へ徒歩を進める。

「あの人…本当に小児科の先生?」

1人残された拓馬は唖然としたまま
その姿を見守っていた。
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