云わずと知れた、古びたビルの一室。
「やはりそうか…」
集められた資料にザッと目を通し、
鷲汰は不気味に微笑を浮かべた。
自分が予想していたものと
余りにもピッタリな回答だったからだ。
ピッタリ過ぎて正直、面白みも足りない。
「何がストーカーだよ。
テメェの捨てた元旦那が
娘を心配してただけじゃねぇの」
「娘を取られるのが怖かったんじゃないのか?」
「何で又?
ちゃんと養育出来てないっつーの」
どうやら鷲汰には理解出来ない世界の様だ。
「世間体とか、知名度とか。
そう云う事だけは気にしそうじゃないか」
「…つまんね」
「とにかく、この父親が鍵だな。
此方はキチンとコンタクトを取った方が良い。
千尋ちゃんの護衛の為にも」
「それはお前に任せるわ、璃虎」
「偶にはお前が率先して働け…」
「俺が行っても良いの?
纏まる話も破談になるぜ」
「変な自信付けるな…」
「事実だも~~~ん」
「…解った、俺が行く……」
璃虎は溜息を吐きながらも
渋々了承した。
「愛してるぜ、璃虎!」
「お前からの愛だけは
絶対に要らん……」
「そうそう、そう言えばさ。
結構ハンサムだったぜ、彼女の父親」
「………」
意味深な笑みを浮かべる鷲汰に対し
璃虎はかなりあからさまに
盛大に深い溜息を吐いていた。
「済まないな、付き合わせて…」
璃虎はそう言うと盛んに頭を掻いている。
「気にしないで下さいよ。
今日は店も休みだったし」
「そう云う時こそ、
ゆっくり体を休めれば良いのに…」
「璃虎さんは普段も多忙じゃないですか。
俺とは違うんですから」
「拓馬…」
「俺はこう見えて頑丈ですからね!」
拓馬はそう言うと嬉しそうに珈琲を味わう。
「でも…意外だったな」
「何が?」
「璃虎さんって…鷲汰さんと
同い年だったんですね」
「腐れ縁と云うか…幼馴染。
同級生で、昔から振り回された」
「今でも?」
「今でも」
昔を語る璃虎は普段よりも穏やかで
拓馬はそんな彼を見るのが好きなのだ。
「当時から頭良かったんですか?」
「さぁ…。自分の事はよく判らないし」
「鷲汰さんは?」
「カンニングと遅刻と早弁はダントツだ」
「褒めて無いし…」
「褒めようが無い」
璃虎は珈琲カップに口を付けようとしたが
不意に何かを見つけたのか
そのまま皿に戻した。
「どうかしました?」
「…御対面だ」
短くそれだけを告げると
慣れた感じで彼は立ち上がり、
ターゲットの傍へ徒歩を進める。
「あの人…本当に小児科の先生?」
1人残された拓馬は唖然としたまま
その姿を見守っていた。