拓馬まで巻き込んでいる。
「璃虎の所にな、行ったの」
鷲汰はボソッと呟く様に言った。
「あれ? それなのに?」
「追い返されたから」
「えっ?!」
拓馬にしても意外な言葉。
医者である璃虎が怪我人を追い返すとは。
そんな人物には見えないのだが。
「アイツ、怒らせると話聞かないからね」
「怒らせちゃったんですか?」
「まぁ…ね。
いつもの事だけどさ」
「いつもの事でしょうけど
今回はかなり尾を引くんじゃないんですか?」
「引く、かな?」
「多分…。
だって、鷲汰さん…」
「ん?」
「本当に元気無いから」
拓馬の所を訪れて正解だったと
漸く鷲汰は笑顔を見せた。
少女はゆっくりと目を覚ました様だ。
キョロキョロと辺りを見回す。
落ち着きが無い。
「起きた?」
「誰、おじさん達?
誘拐犯?」
「…はい?」
「私を誘拐するの?
ウチ、お金なんて無いよ!」
先程とは随分印象が違う。
責められてるのは同じだが。
「君、何も覚えてない?
手の怪我の事とか」
「怪我?」
鷲汰の言葉によって、
初めて少女は怪我に気付いたみたいだ。
「どうなってんだ?」
「俺に聞かんで下さい」
拓馬も白旗を揚げている。
とにかく先ずは誤解を解こう。
鷲汰はゆっくりとあらましを説明し、
自分達が誘拐犯では無い事だけを
納得させる事に成功した。
「よくある事、なの?」
「うん。記憶が欠けてるというか。
知らない間に怪我してたりね…」
「今回みたいに?」
「…うん。
おじさんが言う様に、
私が屋上で身を投げるなんて
想像もつかないよ」
少女の話を聞くと
どうやら自殺願望は全くと言って良い程
存在してはいなかった。
じゃあ鷲汰が出会ったあの子は
一体何処に行ってしまったのだろう。
「それこそ医者の出番では?」
拓馬の言葉に力無く鷲汰が頷く。
素人判断は危険だし、
それ以前にお手上げ状態だ。
「鷲汰さんが嫌なら
俺から璃虎さんに話を通しますよ」
「…う~ん」
「その必要、無いし」
「…璃虎?」
声のする方を向くと、
いつの間にか璃虎が上がり込んでいた。
先程とは違う柔和な表情で
少女と向かい合っている。
「初めまして。
俺、この【オジサン】の知り合い」
「知り合いのお医者さん?」
「そう」
璃虎は何かを掴んでいるのか、
ごく自然に少女と話を続けていた。