Scene・4

File・2

鷲汰の、らしくも無い不安顔は
拓馬まで巻き込んでいる。

「璃虎の所にな、行ったの」

鷲汰はボソッと呟く様に言った。

「あれ? それなのに?」
「追い返されたから」
「えっ?!」

拓馬にしても意外な言葉。
医者である璃虎が怪我人を追い返すとは。
そんな人物には見えないのだが。

「アイツ、怒らせると話聞かないからね」
「怒らせちゃったんですか?」
「まぁ…ね。
 いつもの事だけどさ」
「いつもの事でしょうけど
 今回はかなり尾を引くんじゃないんですか?」
「引く、かな?」
「多分…。
 だって、鷲汰さん…」
「ん?」
「本当に元気無いから」

拓馬の所を訪れて正解だったと
漸く鷲汰は笑顔を見せた。

* * * * * *

少女はゆっくりと目を覚ました様だ。
キョロキョロと辺りを見回す。
落ち着きが無い。

「起きた?」
「誰、おじさん達?
 誘拐犯?」
「…はい?」
「私を誘拐するの?
 ウチ、お金なんて無いよ!」

先程とは随分印象が違う。
責められてるのは同じだが。

「君、何も覚えてない?
 手の怪我の事とか」
「怪我?」

鷲汰の言葉によって、
初めて少女は怪我に気付いたみたいだ。

「どうなってんだ?」
「俺に聞かんで下さい」

拓馬も白旗を揚げている。

とにかく先ずは誤解を解こう。
鷲汰はゆっくりとあらましを説明し、
自分達が誘拐犯では無い事だけを
納得させる事に成功した。

* * * * * *

「よくある事、なの?」
「うん。記憶が欠けてるというか。
 知らない間に怪我してたりね…」
「今回みたいに?」
「…うん。
 おじさんが言う様に、
 私が屋上で身を投げるなんて
 想像もつかないよ」

少女の話を聞くと
どうやら自殺願望は全くと言って良い程
存在してはいなかった。

じゃあ鷲汰が出会ったあの子は
一体何処に行ってしまったのだろう。

「それこそ医者の出番では?」

拓馬の言葉に力無く鷲汰が頷く。
素人判断は危険だし、
それ以前にお手上げ状態だ。

「鷲汰さんが嫌なら
 俺から璃虎さんに話を通しますよ」
「…う~ん」
「その必要、無いし」
「…璃虎?」

声のする方を向くと、
いつの間にか璃虎が上がり込んでいた。
先程とは違う柔和な表情で
少女と向かい合っている。

「初めまして。
 俺、この【オジサン】の知り合い」
「知り合いのお医者さん?」
「そう」

璃虎は何かを掴んでいるのか、
ごく自然に少女と話を続けていた。
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