Scene・5

File・2

少女の名前は【水仙】と言った。
水仙は鷲汰達に対し好意的で、
心配する点は余り感じられなかった。

もう1人の彼女の名は【鈴蘭】だと言う。
鷲汰や拓馬には食って掛かるが
璃虎に対しては距離を置いている。

「で、問題は
 どうして鈴蘭が誕生したか、
 なんだけど…」
璃虎は静かに口を開く。

「本人も忘れてる、
 或いは…忘れたがっている
 トラウマが原因かも知れないね」
「原因は判るんですか?」
「探る方法なら幾つか有る。
 但し、興味本位でと言うなら
 医者として、人としても
 俺は薦めないね」

「…つまり、だ」

鷲汰がふと口を挟んで来た。

「鈴蘭が生まれてきた事は
 何らかの大きな意味合いが有る、と」
「医学的には、多分」
「医学的?」
「オカルト関連なら
 別解釈になると思うからさ」

「相変わらず知識の幅が広いのね。
 医者なのにオカルトもOKとは…」
「お前の範囲が狭いだけだ、鷲汰」
「アイタタタ……」

3人の見解は
一応の方向性を定めた。

【水仙】と【鈴蘭】の共存。

今よりも良い環境での
2人の共存を。
それに期待したのである。

* * * * * *

「随分面白い話じゃない?」

未津流の事務所に赴いて
一通りの説明をすると
彼は笑顔でこう話した。

「一人で二人分の人生か。
 何だかお得だよね」
「本人がそう思えば苦労しないって」
「そうは言ってもだね、鷲汰。
 どうしてそんな行動に出るのか
 先ずは聞いてみないと」
「う~ん…」

「或いは、逆…かも」
「逆?」
「リストカットだっけ?
 鈴蘭ちゃんがやったのは」
「あぁ……」
「じゃあやっぱり【逆】だな」
「だから何が…?」

いまいち的を得ないという鷲汰に
未津流はやはり笑顔で答える。

「認めて欲しいんだよ。
 鈴蘭ちゃんは自分の存在を。
 出来損ないだけど、
 水仙ちゃんと同じ様に
 自分を認めて受け入れて欲しいんだ」

未津流の説明を聞き、
鷲汰は漸く合点が行った様だ。
こう云う話は苦手だし
どうしてもピンと来ないのが
鷲汰の鈍い所でもある。

「さて、じゃあ近い内に
 鈴蘭ちゃんに会わせてもらおう~♪」
「未津流さんって…」
「ん? 何?」
「やっぱり…ロリコン?」
「熟女派ではないね」

鷲汰が放った渾身のジャブも
今の未津流には
全く効かなかったらしい。
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