Scene・6

File・2

下校時、水仙は不意に
或る男性に声を掛けられた。
淡い色の無精髭を携えた、サングラスの男。
言わずと知れた未津流である。

「今、帰り?」
「…はい。あの……」
「ん?」
「貴方は?」
「鷲汰の友人の未津流。
 こう見えて一応弁護士なのよ」

未津流は慣れた様子で
胸ポケットから名刺を取り出す。

「不安だったら弁護士会に
 身元調査してもらっても構わないよ」
「いえ、其処迄は…」

水仙は何処か怯えたような目をしている。
それが未津流には気になっていた。
自分以外の何かに怯える目。

「あ、さよなら。又 明日…」

クラスメイトだろうか。
或る女子高生に彼女が声を掛けるも
相手は何も聞こえないが如く
そのまま立ち去ってしまった。

「…何、あれ?」
「気にしないで下さい。
 いつもの事ですから…」
「いつものって…」
「……」
「集団シカトって奴か?
 立ち入った事、聞くけど」
「…そう、かも知れません」

元気の無い声。
落ち込んだ様子の彼女を見て
未津流はそれ以上何も言わなかった。

彼女をそのまま家へ送り、
帰り際にそっと未津流は呟く。

「悔しくないのかい?」
「…えっ?」
「あんな仕打ちされて。
 悔しくは無い?」
「…仕方が無いんです。
 私が原因だから……」
「……」

未津流は優しく微笑み、
そっと水仙の髪を撫でる。

「悔しさはね、内に秘めるもんじゃない。
 適度に外に吐き出さないと
 自分が参っちゃうよ」
「未津流さん…」
「何か遭ったら、俺か鷲汰に連絡頂戴。
 待ってるから」
「…有難う御座います」

微かに微笑んだ水仙の表情は
とても穏やかで大人びていた。
少女らしからぬその笑みに
未津流はやはり心配の色を隠せずに居た。

* * * * * *

「あぁ、璃虎?」

未津流は携帯を取り出し、
すぐさま璃虎に連絡を取っていた。

「会ってみたよ」
『どうだった?』
「うん。お前の心配してた通り。
 やはり…色んな要因が絡んでるね。
 専門は…何科なんだっけ?」
『解離性人格障害だとすると…
 精神科か心療内科、かな?』

スラスラと答える辺り、
やはり医者だと未津流は思う。

『家族なら本人の代わりに
 受診も可能だけど…
 俺達ではどうする事も……』
「そうなんだよね。
 赤の他人だもん、仕方が無い」

『未津流さん?』
「ん?」
『何か、考えてる?』
「今の所は、まだ。
 良いアイディアが浮かべば
 儲け物なんだがね…」

『知人の医師に当たってみるよ』
「済まないね、璃虎。
 医療関係はお前に頼るしかなくて」
『…確信犯なんだからな、未津流さん』

少し笑い声が聞こえる。
璃虎は簡単に一言何かを告げると
そのまま電話を切った。
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