Scene・7

File・2

「だから、此処は明け渡さないって
 何度も言ってるでしょうが!」

黒服に吹っ飛ばされながらも
拓馬は必死に食らいついていた。

こう云う時は先ず間違いなく
誰もが自分の救いにはならない。
自分の居場所は自分以外に守れない。
それが解っているから
拓馬は一歩も引かない。

流石に何度目かのパンチで
目の前は薄暗くぼやけて来た。
いよいよ危ないか。

「誰だ、お前?」

黒服の声に視線を向ける。
其処に立っていたのは
いつもの未津流の姿ではない。

「最低。弱い者虐め」
「何だと?」
「物を知らないお嬢ちゃんは
 大人しくこの場を去りな」
「アンタ等が消えれば?」

確かに、少女の声。
然もこの声は。

拓馬がその正体を掴もうとした時、
鈍い音が耳に届いた。
アレは恐らく、骨折しただろう。

「…え?」

予想に反して、
のた打ち回っているのは黒服の方だ。
流石にこれは拓馬も驚いた。

「アンタ等、邪魔」

そう悪態吐く彼女の表情は
確かに輝いても見えた。

* * * * * *

「居ない?」
『そう。出掛けちゃったみたい』
「どっちが?」

未津流は電話口の相手に聞き質すも
その相手、鷲汰もどうやら判らないらしい。

「何て情けない保護者だよ…」
『悪かったね』
「何か残してなかったか?」
『メモ書きとか? いいや』
「そうか…」
『あぁ、でも…』
「ん? 何だ?」
『多分ラフな格好をして出掛けてるから
 鈴蘭の方じゃないかな』
「おい…」

流石に語尾が荒くなる。
主人格の水仙ならともかく
好戦的な鈴蘭となると話は別だ。

「良いか? 30分以内に捜し出せ」
『…マジ?』
「マジだ。
 久々にお前をブン殴りたくなってる」
『即効で捜して来ます…』

未津流が怒ればどうなるのか。
それは、鷲汰だけが知る秘密である。

* * * * * *

「酷い怪我だな」

黒服をいとも簡単に追い払い、
鈴蘭は機嫌良く拓馬に近付く。

「…御蔭で、助かったよ」
「アンタ、もっと強くなれば?」
「腕力だけで片付けるのは苦手なんだ」
「そんな感じだね」

今日の鈴蘭は拓馬に対して
随分素直な反応を返してくる。

「久々に体を動かして
 ストレス発散出来た。
 又アイツ等が来たら呼んで」
「危ないよ」
「あんな奴等に負ける私じゃない」

自分の力に余程の自信が有るのか。
とにもかくにも
今の鈴蘭の機嫌を損ねたくなかった拓馬は
彼女の申し出を黙って受け入れる事にした。

『要は…アイツ等が来なければ良いんだし』

拓馬の見解の甘さは
今に始まった事ではない。
Home Index ←Back Next→