Scene・9

File・2

『コッチに迷惑掛けるなって
 いつも言ってるでしょ、シュウ?』
「いや…解ってはいるんだけど」
『アンタがそう云う事を言う時は
 何も解ってないって事なの!』

電話口の声は少しも語尾を和らげない。

『璃虎からの頼みだからね』
「流石は姉貴…」
『アタシはアンタの姉貴じゃないよ』
「……御尤も」

璃虎の実姉、とは云っても
多少年が離れている彼女と
こうして電話するのも久しぶりである。
大体にして、用事が無ければ
何もしないのが鷲汰の人柄だが。

『で、水仙…だっけ?
 その子、本当に引き取っても良いの?』
「あ、あぁ。まぁね。
 家に居ても状況が悪いらしくて」
『親御さんはそれでも良いって?』
「吃驚する話だが…了承は得てる」
『…何てこったい』

口調は完全に呆れ返っていた。

『野郎共に女の子を任せては置けないね。
 アタシが責任持って預かるよ』
「助かるよ、巳璃(みり)さん!」
『養育費はアンタに請求するから』

ガメつさは流石である。
出来ればその養育費は
両親に要求して欲しいと思う
鷲汰も大概、金には汚い。

* * * * * *

「引越し先も決まった事だし」
「では……」

暢気な仲間の音頭に
水仙は少し恥ずかしそうに笑っている。
手にはオレンジジュース。
何やら歓迎会なるものを
事務所で開いているらしい。

「巳璃は?」
「ヤボ用だと。後で合流するらしい」
「じゃあアレだ。デートだ」
「デート?」

鷲汰は初耳と云う顔を浮かべている。
が、それを説明するほど
璃虎は紳士な奴ではない。
少なくとも、鷲汰に対しては。

「私…本当に良いんでしょうか?」
「駄目なら駄目だってハッキリ言うから。
 巳璃は白黒ハッキリさせる性格だし
 心配しなくても大丈夫」
「…有難う、璃虎さん」

水仙の微笑みに、らしくも無く動揺している。
璃虎はやはり女性との接触に向いていない様だ。

「コレを期に女に慣れてくれ、璃虎…」
「無茶苦茶言うな……」

妙に暗いトーンの鷲汰と璃虎の掛け合い。
それを見ていた未津流が
トンと拓馬の肩を叩いた。

「このチームで頼りになるのは
 俺とお前だけだ。
 シッカリやっていこうぜ」
「はい……」

拓馬も何かを感じ取っているのか
未津流の言葉に対し素直な返事だ。
鷲汰はとにかく、璃虎まで頼りにならないとは
流石に考えては居ないだろうが。

「この先が思い遣られる…」

意図せずして同じタイミングで出た言葉。
余りの良さに
璃虎と拓馬は思わず顔を見合わせた。
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