Scene・10

File・2

「今日から此処が貴女の部屋」
「わぁ……」

巳璃に案内された部屋は
シンプルな水色の色調で統一されていた。

「御免ね、時間が無くてこの有様…」
「あ、有難う御座います。
 凄く嬉しいです」
「喜んでもらえて何よりだわ」

「あの…」
「ん?」
「此処には他に誰か…?」
「璃虎は自分で家持ってるからね。
 アタシの彼氏が来るぐらいかな?」
「私、お邪魔にならないですか…?」
「ならない、ならない!」

巳璃は豪快に笑い飛ばす。
姉弟と聞いてはいるが
仕草などは璃虎と全く似ていない。

「水仙ちゃんの家なんだから、
 気軽にしてれば良いのよ。
 璃虎が気になるなら
 ちゃんとアイツの家に案内してあげるから」
「巳璃さんっ?!」

「アイツってば男しか興味無いからね。
 いや…恋愛対象が
 特定の男しか居なかったって言う方が
 この場合は正解かな?」
「…同性愛者、なんですか」
「相手が限定されてるから
 胸を張って同性愛者も名乗れないわよ。
 中途半端なんだから」

恋愛に対して巳璃の解釈は幅広い。
水仙はどうやらそれだけをハッキリと
理解出来たらしい。

* * * * * *

「巳璃ちゃんが女の子引き取ったって?」
「そう」
「お前の妹、になるのか?」
「…かもね」

夜遅く、診療所に灯る明かり。
離島で勤務していた竜彦が
何を思ったのか、戻って来た。

「もうほとぼりも冷めただろうと思ってさ。
 2年だもんな」
「…外科院長をぶん殴って飛ばされたって、
 病院中で騒ぎになったもんな」
「前々から気に入らなかったんだ。
 ぶん殴って清々したよ」
「で、島の方は良いのか?」
「あぁ。町村合併でな」
「成程……」

マグカップの珈琲を咽喉に流し込み、
竜彦はカルテを覗き込む。
水仙の物だろうか。

「心療内科の方は話を通しておいた」
「助かるよ」

「しかし…」
「ん?」
「好戦的な少女と大和撫子ねぇ…。
 余程のストレスが掛かってたんじゃねぇか?」
「うん、そう思うよ。
 只でさえ、両親の離婚騒動って…」
「それだけかねぇ…」
「ん? 違うのか?」
「根本的に何か別の問題が有りそうだぞ。
 まぁ…生活に支障が無いのなら
 強引に一本化するよりもだ、
 そのまま二人を共存させた方が良いかもな」
「確かに…な」

竜彦は視線をカルテから
璃虎のマグカップに移した。

「珈琲」
「あぁ、淹れるよ。
 気付くのが遅れて御免」
「…俺が淹れようと思ったんだがな」
「竜彦…」
「偶には俺に甘えろ。
 折角帰って来たのに」

赤面する璃虎を嬉しそうに眺めながら
竜彦は彼のマグカップを受け取った。
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