Scene・3

File・3

拓馬はいつもの様に店を閉めると
その足で或る事務所へと向かっていた。

未津流の法律事務所だ。

未津流に用が有って、と云うよりも
未津流に呼び出されて、の方が正しい。

「来ましたよ、未津流さん」
「お、態々済まないね」
「待ってたよ、拓馬」
「あれ? 璃虎さんも?」
「ん…。【代理】でね」
「?」

奥にもう一人、見慣れない黒服が立っている。
随分と背が高く、精悍な顔つきと体型だ。
どこぞのSPだろうか。

「実はさ、例の立ち退き騒動。
 お前さんの近所もかなりやられてるだろう?」
「えぇ…。酷いもんです」
「でだ」

未津流の表情がグッと引き締まる。
普段は巫山戯る事が多いので
真剣な顔をしただけで
充分に【怖い人】の出来上がりだ。

「それで…其方の人は?」
「…非常に、話し難いんだが……」

拓馬の質問に対し、何故か璃虎が赤面している。
意味がサッパリ解らない。

「本来この場に来る筈だった人物が
 ランデブーしちゃったが為に、
 此方の人が来る事になった……」
「??」
「璃虎さん。回りくどい説明は不要です」
「…何だか、申し訳無くてね」
「お気遣い、恐縮です」

黒服はそう言うと、濃紺のサングラスを外した。
やはり、顔つきがかなり怖い人である。
いっそ、サングラスを外さない方が良かった。

「私、荷葉商事の松田と申します。
 今回は代理と云う事で、此方に窺わせて頂きました」
「は…はぁ……」
「お話を伺いました所、貴方様が立ち退きの件で
 金星会の妨害工作で被害を被っているとの事。
 是非、具体的な手口を教えて頂けたらと…」
「手口…ですか?」

拓馬にはイマイチ、ピンと来ない話だった。
この黒服、もとい 松田は
どう見ても【刑事】の類ではない。
どちらかと言えば…本職の……。

「あ…拓馬には言い難い事なんだけど」
璃虎が何かに気付いたらしく口を挟む。

「松田さん、ヤクザだから」
「…へっ?!」
「璃虎さん…」
「いずれバレるんだから、話しておいた方が良いよ。
 てか、甲亥さんなら絶対に正体明かす」
「若は嘘が吐けませんからね…」
「あの…済みません、ヤクザさんがどうして…?」

完全にパニック状態の拓馬の肩を
未津流が笑顔で数回叩く。

「目には目を、歯には歯を。
 ハンムラビ法典、学校で習ったよね?」
「強烈な目じゃないですかっ!!」
「中途半端な目で対抗したら
 大火傷じゃ済まないからさ」
「そう云う問題ですかっ?!」

「若が来られた方が良かったですかね?」
「俺は…松田さんの方が正解だったと思うよ…」

困惑する松田に対し、璃虎は情けない表情を浮かべる。
そう、この2人はかなり昔からの顔見知り。
甲亥と巳璃の気侭な付き合いに泣かされ続けているのだ。

「ヤクザさんにも色んな種類が居るんだよ。
 一般人の中にも色んな奴が居るだろう?」
「た…確かに……」
「少しは落ち着いた?」

未津流はウィンクして拓馬を見つめる。
それに対し拓馬は、少し恥ずかしそうに頷いた。
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