竜彦は逆に何事にも動じないらしく
ノンビリとソファで寛いでいる。
「タッちゃん…」
「ん?」
「何時まで此処に居るの?」
「ん?」
「今日、仕事は?」
「俺は急患対応」
「横着な…」
ならば現場に待機してるのが常であろう。
人の事務所で我が物顔して寛いでどうする。
「何イラついてんだよ?」
「別に…」
「ふ~ん」
少し口元を緩めながら
竜彦は徐に煙草を咥えた。
「煙草…止めたんじゃなかったっけ?」
「復活させた」
「何で?」
「一寸したデモンストレーション」
「??」
「意味が解らないんならそれで良いよ」
2年ぶりだと云うのに
竜彦は全くと言ってもいいほど
何も成長が無い様である。
「なぁ~、シューちゃん」
「ん…何?」
「お前…俺の留守中に
璃虎に手を出してなかっただろうな?」
「俺…女が好きなんだけど……」
「手を出したか出して無いかを聞いてるの。
お前の好みなんて一切聞いて無い」
「……」
「どうよ?」
「出してませんって」
「本当?」
「第一、璃虎は浮気とかさ…
そう云うの一切が駄目な奴だもん」
「彼奴は身持ちが硬いからな。
だからこそ、お前みたいな遊び人タイプには
実は意外と弱かったりするんだ」
「………」
何か竜彦は激しく勘違いしている気がする。
その勘違いを原動力に戻って来たのだろうか。
だとすればこの男、とんでもない。
「璃虎は俺の恋人なんだから
手を出したら駄目だぞ。
摘まみ食いも勿論駄目だ」
「手を出した瞬間に
お前に殺られたくはないよ、タッちゃん…」
「良く解ってるじゃないか。
流石は幼馴染だよな!」
「……」
これはほぼ間違い無く、
鷲汰を監視する為に戻って来たに違いない。
鷲汰は背中に冷たい物が流れ落ちるのを感じていた。
「クシュン!」
「あら、風邪?
湯冷めじゃないだろうね…」
「多分…違うと……」
「折角温泉に来たってのに
風邪引いて倒れられたら困るってもんさ」
巳璃は困った様な笑みを浮かべながら
葛湯をそっと差し出した。
「アンタは人よりも疲れ易い体質なんだから。
無理だけはしちゃ駄目だよ」
「はい、巳璃さん」
「それにしても時間掛かってるね。
また道に迷ったんじゃないだろうか…」
「えっと、恋人さん…?」
「偶に致命的な方向音痴を発揮するんだよ。
此処には何度も来てるんだけど…」
「そうなんですか……」
これから来るである話題の主。
一体どんな人物なのだろうか。
水仙は少しドキドキしながらも
楽しみながら時間を過ごしていた。