Scene・4

File・3

鷲汰は先程からどうも落ち着きが無い。
竜彦は逆に何事にも動じないらしく
ノンビリとソファで寛いでいる。

「タッちゃん…」
「ん?」
「何時まで此処に居るの?」
「ん?」
「今日、仕事は?」
「俺は急患対応」
「横着な…」

ならば現場に待機してるのが常であろう。
人の事務所で我が物顔して寛いでどうする。

「何イラついてんだよ?」
「別に…」
「ふ~ん」

少し口元を緩めながら
竜彦は徐に煙草を咥えた。

「煙草…止めたんじゃなかったっけ?」
「復活させた」
「何で?」
「一寸したデモンストレーション」
「??」
「意味が解らないんならそれで良いよ」

2年ぶりだと云うのに
竜彦は全くと言ってもいいほど
何も成長が無い様である。

「なぁ~、シューちゃん」
「ん…何?」
「お前…俺の留守中に
 璃虎に手を出してなかっただろうな?」
「俺…女が好きなんだけど……」
「手を出したか出して無いかを聞いてるの。
 お前の好みなんて一切聞いて無い」
「……」

「どうよ?」
「出してませんって」
「本当?」
「第一、璃虎は浮気とかさ…
 そう云うの一切が駄目な奴だもん」
「彼奴は身持ちが硬いからな。
 だからこそ、お前みたいな遊び人タイプには
 実は意外と弱かったりするんだ」
「………」

何か竜彦は激しく勘違いしている気がする。
その勘違いを原動力に戻って来たのだろうか。
だとすればこの男、とんでもない。

「璃虎は俺の恋人なんだから
 手を出したら駄目だぞ。
 摘まみ食いも勿論駄目だ」
「手を出した瞬間に
 お前に殺られたくはないよ、タッちゃん…」
「良く解ってるじゃないか。
 流石は幼馴染だよな!」
「……」

これはほぼ間違い無く、
鷲汰を監視する為に戻って来たに違いない。
鷲汰は背中に冷たい物が流れ落ちるのを感じていた。

* * * * * *

「クシュン!」
「あら、風邪?
 湯冷めじゃないだろうね…」
「多分…違うと……」
「折角温泉に来たってのに
 風邪引いて倒れられたら困るってもんさ」

巳璃は困った様な笑みを浮かべながら
葛湯をそっと差し出した。

「アンタは人よりも疲れ易い体質なんだから。
 無理だけはしちゃ駄目だよ」
「はい、巳璃さん」

「それにしても時間掛かってるね。
 また道に迷ったんじゃないだろうか…」
「えっと、恋人さん…?」
「偶に致命的な方向音痴を発揮するんだよ。
 此処には何度も来てるんだけど…」
「そうなんですか……」

これから来るである話題の主。
一体どんな人物なのだろうか。
水仙は少しドキドキしながらも
楽しみながら時間を過ごしていた。
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