Scene・6

File・3

再度、携帯の振動が届く。
先程切ったばかりなのに、と確認すると
着信登録名は巳璃であった。

「どうしたの、姉さん?」
『あぁ、璃虎。御免ね…』
「何でいきなり謝るの?」
『一寸ね…やっちゃった……』
「? どう云う事?」

受話器の奥から少し怒った声で『代われ』と来る。

『璃虎?』
「こ…甲亥さん?」
『…鈴蘭やったっけ?
 アイツにはもう少し人付き合いってモノを教えとけ。
 お前も一応、保護者やろ?』
「…鈴蘭がどうしたんだ?」
『ヤクザを見ると殴り掛かって来る癖でも有るんか?
 これじゃ話にならんな』
「まさか…」
『安心せい。俺の方は当身食らわしただけじゃ』
「…済みません」

甲亥は武道の有段者だと聞いた事が有る。
確かに、鍛えていなければ
生きていくだけでも厳しい世界。
そして、甲亥の性格上
女性に手を上げる事はかなり躊躇われた筈だ。

『まぁ…お前に当たっても仕方が無いわな』
「甲亥さん…」
『璃虎、これだけは言っとく』
「はい…」
『本職を舐めるなよ。
 鉛の弾相手に素手で勝てるほど
 やっすい相手とちゃうぞ、ヤクザは』
「…はい」

甲亥が心配したのは其処なのだろう。

鈴蘭が抗争に飛び込んでしまえば
助け出すのも困難になる。
鈴蘭一人の判断で動かれては堪らない。
水仙が常に一緒なのだ。

何も知らずに怪我をするのはいつも水仙。

璃虎は思わず胸を押さえた。
何も言えず、苦しくなる。

『璃虎』
「…はい」
『お前、水仙に惚れてんのか?』
「えぇーーーっ?!」
『叫ぶな! 耳痛いわ!!』
「だ…だ…だって…だって…っ!!」
『別にお前がホモだろうが何だろうがええけどよ。
 中途半端やからな、お前のホモ嗜好』
「い…いや、だから俺…別にホモでは…」
『それがいかん』

甲亥が何を言い出したのか。
璃虎はサッパリ理解が出来ないでいる。

『ホモならばホモで在る事に誇りを持て。
 それが無理ならこの機会じゃ、女の事も学んどけ』
「甲亥さんっ?!」
『お前の恋愛は恋愛とは呼べん。
 男にしろ女にしろ、そんな中途半端な思いじゃ
 相手に対しても失礼やろう?』
「あ……」
『もう良いだろう、甲亥!』

巳璃である。
携帯電話を引っ手繰ったのであろう。

『とにかくさ、璃虎。
 水仙も鈴蘭もアタシが責任を持って引き取ったんだ。
 保護者はアタシなんだから…アンタは気にしないで』
「姉さん……」
『折角アンタがアタシを信頼して預けてくれた娘なのに…
 守ってやれなくて御免ね、璃虎』

昔からそうだ。
何時でも自分を守る為に
誰よりも早く立ち上がってくれる姉。
失恋した時も、姉が相談に乗ってくれたから…。

「姉さん…」
『うん、何?』
「…有難うな、姉さん。
 彼女達の事は、俺も守るから……」
『璃虎…有難う』
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