気を利かせた拓馬が野菜を持参したのだ。
後は何故か、松田が肉や魚介類を用意している。
甲亥からの差し入れらしいが、
それを素直に鍋に入れる辺り…
未津流の腹黒さは群を抜いている。
「璃虎、電話終わった?」
「うん。お待たせ」
「折角だから鷲汰達も呼んだら?
お前の幼馴染も来てるんだろう?
一緒に鍋突こうぜ」
「…良いの?」
「勿論。良いよな、拓馬」
「えぇ。本当は鈴蘭達も来るかなと思ったんで」
「だから多めに用意してたのか…」
何処となく拓馬は嬉しそうだ。
そう言えば彼は『鈴蘭』達、と呼んだ。
彼が意識しているのは…鈴蘭なのだ。
『彼女達が存在する理由…か』
璃虎が不意に溜息を吐いたのを確認した未津流は
何も言わず、彼の肩を優しく叩く。
「未津流さん…」
「鷲汰、飯が掛かると五月蝿いから」
「そうですね…。連絡取ります」
「宜しく頼むよ」
「はい…」
璃虎が笑みを浮かべると
未津流も嬉しそうに頷いた。
「あ、璃虎?」
携帯から再度掛かってきた、恋人からの連絡に
竜彦はスッカリ舞い上がっていた。
それを白けた目で見つめる鷲汰。
「え? 飯?
弁護士の友人の事務所で?
事務所で寄せ鍋やってんの?」
「(鍋!)」
「そっか…。じゃあ行くよ」
「(早く行け、この野郎!)」
「シューちゃんも連れて行くの?
仕方が無いなぁ…。解ったよ」
「(何ですと?!)」
「だってさ、シューちゃん。
さぁ、鍋食いに行くぞ! 案内して!!」
漸く今年も終わると云うのにこの有様。
来年もこんな調子なのだろうか。
鷲汰は思わず我が身を呪い…掛けたが
馬鹿馬鹿しいので止めにした。
「…さっきから肉ばっか食って」
璃虎が呆れながら野菜を取り分けている。
勿論、肉ばかり食っているのは鷲汰だ。
先程の件もあるので、
肉を食ってウサ晴らしをしているらしい。
「竜彦、白菜もっと入れる?」
「おぅ、頼むよ!」
「野菜、お好きなんですか?」
「ベジタリアンなんだ、これでも」
竜彦の返答に八百屋経営の拓馬は満面の笑顔だ。
それを見て、一層自棄になる鷲汰。
孤立無援状態だ。
「酒、行けるの?」
「えぇ、好きですよ。量は呑めないけど」
「量は別に良いんだよ。
職業柄もあるんだろうし」
未津流まで関心を示している。
これでは益々以って孤立無援。
「…魚介類は、食うよな?」
「……」
璃虎の声掛けに無言で茶碗を差し出したら
竜彦の箸が飛んできた。
「行儀悪い!」
「ごっめ~ん! 滑らせた!」
絶対悪いと思ってない。
然も悪意に満ちている。
来年こそは仲良くなってくれないかな?と
淡い期待を胸に秘める璃虎であった。