Scene・7

File・3

未津流の事務所から良い匂いが漂って来る。
気を利かせた拓馬が野菜を持参したのだ。
後は何故か、松田が肉や魚介類を用意している。
甲亥からの差し入れらしいが、
それを素直に鍋に入れる辺り…
未津流の腹黒さは群を抜いている。

「璃虎、電話終わった?」
「うん。お待たせ」
「折角だから鷲汰達も呼んだら?
 お前の幼馴染も来てるんだろう?
 一緒に鍋突こうぜ」
「…良いの?」
「勿論。良いよな、拓馬」
「えぇ。本当は鈴蘭達も来るかなと思ったんで」
「だから多めに用意してたのか…」

何処となく拓馬は嬉しそうだ。
そう言えば彼は『鈴蘭』達、と呼んだ。
彼が意識しているのは…鈴蘭なのだ。

『彼女達が存在する理由…か』

璃虎が不意に溜息を吐いたのを確認した未津流は
何も言わず、彼の肩を優しく叩く。

「未津流さん…」
「鷲汰、飯が掛かると五月蝿いから」
「そうですね…。連絡取ります」
「宜しく頼むよ」
「はい…」

璃虎が笑みを浮かべると
未津流も嬉しそうに頷いた。

* * * * * *

「あ、璃虎?」

携帯から再度掛かってきた、恋人からの連絡に
竜彦はスッカリ舞い上がっていた。
それを白けた目で見つめる鷲汰。

「え? 飯?
 弁護士の友人の事務所で?
 事務所で寄せ鍋やってんの?」
「(鍋!)」
「そっか…。じゃあ行くよ」
「(早く行け、この野郎!)」
「シューちゃんも連れて行くの?
 仕方が無いなぁ…。解ったよ」
「(何ですと?!)」
「だってさ、シューちゃん。
 さぁ、鍋食いに行くぞ! 案内して!!」

漸く今年も終わると云うのにこの有様。
来年もこんな調子なのだろうか。
鷲汰は思わず我が身を呪い…掛けたが
馬鹿馬鹿しいので止めにした。

* * * * * *

「…さっきから肉ばっか食って」

璃虎が呆れながら野菜を取り分けている。
勿論、肉ばかり食っているのは鷲汰だ。
先程の件もあるので、
肉を食ってウサ晴らしをしているらしい。

「竜彦、白菜もっと入れる?」
「おぅ、頼むよ!」
「野菜、お好きなんですか?」
「ベジタリアンなんだ、これでも」

竜彦の返答に八百屋経営の拓馬は満面の笑顔だ。
それを見て、一層自棄になる鷲汰。
孤立無援状態だ。

「酒、行けるの?」
「えぇ、好きですよ。量は呑めないけど」
「量は別に良いんだよ。
 職業柄もあるんだろうし」

未津流まで関心を示している。
これでは益々以って孤立無援。

「…魚介類は、食うよな?」
「……」

璃虎の声掛けに無言で茶碗を差し出したら
竜彦の箸が飛んできた。

「行儀悪い!」
「ごっめ~ん! 滑らせた!」

絶対悪いと思ってない。
然も悪意に満ちている。

来年こそは仲良くなってくれないかな?と
淡い期待を胸に秘める璃虎であった。
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