Scene・8

File・3

へべれけに酔っ払った外見双子の後姿を
璃虎は苦笑を浮かべながら見守っている。
学生時代もこんな感じだった。
あれは中学時代の部活の帰りか。
やはり、同じ様に肩を組み合う二人を
後ろから静かに見守っていた自分を思い出す。

「変わってないのか、変わってしまったのか。
 どっちなんだろうな」
「へ? 何が?」

反応したのは竜彦の方だった。

「昔を思い出してた」
「何時頃?」
「中学生の頃」
「何で又?」
「解らない」

酔っ払いに合わせているので若干声が大きい。
物音一つ無い道で、二人の声だけが響く。

「璃虎ー」
「ん? 何?」
「今度さぁー」
「うん」
「デートしようぜー!」
「!!」

酔っているのか素なのか。
竜彦のこの言動は正直
どちらか判断がつかない。

「俺、遊園地に行きたい!」
「た…竜彦……。
 そんな大声で言わなくても…」
「な! 約束だから!」
「……う、…」

「うん」と言い掛けたその時
鷲汰の左腕が思い切り竜彦の後頭部に直撃した。

「痛ぇ!」
「?!」
「あ。御免、御免」
「シューちゃん…」
「御免、タッちゃん」
「ったく仕方がねぇなぁ~。
 気を付けてくれよ、シューちゃん」
「そうする~。
 済まないね、タッちゃん」
「……」

脳裏に瞬時に過ぎった物を
璃虎は静かに否定するかの様に
首を横に振って追い出そうとした。

『期待するだけ、バカを見る。
 散々経験したんだから…』

一番変わってないのは自分だと
つくづく嫌になる璃虎であった。

* * * * * *

「ん?」

パーティも終わり、後片付けの真っ最中。
拓馬は自身の携帯が点滅してるのに気付いた。
音には気付かなかったが、
恐らくはメールの着信だろう。

「誰だろ? 忘れ物か何かかな?」

手を拭き、コタツに入って携帯を開く。
デコレーションメールが
『明けましておめでとう』のメッセージを
可愛らしく彩っていた。
そして、一言。

『八百屋、絶対に守るから。鈴蘭』

拓馬は慌てて壁掛け時計を見た。
時間は0時を5分程過ぎたところ。
年が変わっていたのだ。

「鈴蘭…」

新年の所信表明のつもりか。
それにつけても『八百屋を守る』とは
有り難い事だが…少々心配だ。

「俺の方が守ってあげないといけないんだけど。
 武力行使じゃ、完全に勝ち目無いもんな」

苦笑を浮かべ、慣れた様子で携帯を操作する。
今はどういう状況か掴めないけれど
メールであれば、【彼女】も見てくれる筈だから。

『明けましておめでとう、鈴蘭。水仙。
 今年もどうぞ宜しく。拓馬』
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