Act.4:Ruins

Urthr 編

「夢で見た…風景みたいだ」
キリークがボソッと呟いた。

「覚えが有るのか、この町に?」
「…無い、筈だけど」
タラークの問い掛けにも反応は薄いが
彼は確かに、この廃墟に何かを感じている。

「ケルベロス」
アークは何かを察し、ケルベロスを呼んだ。
だが、流石にレベルの高い獣の神。
アークの呼び掛けには答える素振りも無い。

「ケルベロス!
 聞こえてるんなら出て来いよ!」
「お前の従属じゃないから無理じゃない?」
「あのなぁ、タラーク…。
 俺は真剣なの!」
「それは解ってるけどね」

何度呼び掛けてもケルベロスは現れない。
やはりソッポを向かれているのだろうか。

「ケルベロス」
キリークは見かねて、そっと彼を呼ぶ。

「教えて欲しいんだ。
 俺、この町と関係が有るの?」

やがて、ゆっくりとケルベロスがその姿を現す。
相変わらず小難しい表情だと
アークは心の中でごちた。

『此処は…キリークの生まれた町。
 そして彼を捨てた町』

それだけを言い伝えると
白い巨獣は再び姿を消してしまった。

「キリークを捨てた、町?」
却って疑問が増えてしまった。

キリークの生まれ故郷なら話は解る。
だから彼は『懐かしさ』を感じ取ったのだろう。
だが、『捨てた』とは
どう云う意味なのだろうか。

「穏やかならぬ言葉だな」
ウーンの呟きにも納得だ。

キリークはと云うと、
不思議そうに町を眺めているだけだ。
『捨てた』と云う単語。
彼には理解が出来ていないのかも知れない。

「入ってみるか、この町に」
「何が出るか判らないがな。
 お宝でも有れば儲けモノだ」

アークの提案にタラークが快く乗ってくる。
こんな時程、彼の能天気さに助けられる事はないと
アークは少し彼に感謝していた。

* * * * * *

一方。

「バン様はどうされている?」

全てが水晶で構成された建物。
その廊下での会話。

「眠りに就かれておる」
「そうか」
問い掛けて来た側は
それで納得したらしい。

「では、引き続き頼む」
「うむ、任された」

短い言葉の往来。
扉の向こうではやはり
水晶で構成された部屋。
真っ白な壁紙とカーテン、そしてベッド。

一人の青年が深い眠りに就いている。
浅い呼吸を繰り返すだけで
他の動きは一切無い。

この青年こそが『バン』である。

『クリスタルマーカー』の本部の一室で
バンは静かに眠り続けていた。

* * * * * *

『気を付けて』
「えっ?」

廃墟に入ろうとした時、
不意にキリークの脳裏に届いた言葉。

周りを見渡すが人は居ない。

「どうした、キリーク?」
「人の、声…」
「声? 誰も居ないぜ」
「…そう、だよね」

『俺にだけ、聞こえた…声?』

キリークは声の助言に耳を傾け、
警戒を強める事にした。

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