Act.6:Important Person

Urthr 編

俺にとって特別な人は
我が主、唯一人。
今は亡き、大切な存在。
護り切れなかった…大切な存在だった。

* * * * * *

俺は東の海を越えた国出身。
元々、この大陸の人間ではない。
海に囲まれ、自然に愛された
とても大切で、大事な場所だった。

その場所も、今はもう無い。
国の崩壊と共に…海の藻屑と消えた。

俺の生まれ育った国には
勿論『魔法』なんて物は存在しなかった。
誰もその存在を知らずに
極自然に暮らして来ただけだ。

唯一人。
我が主を除いては…。

* * * * * *

思い出す度に生まれる激しい憎悪と喪失感。
それを発散するかの様に闘う自分。
今の姿は果たして…
我が主に見せられる物だろうか?

何度思案した所で答えは決まっている。
奪われた苦しみを、悲しみを
奪った奴等にぶつけるしかない。
同じ悲しみが増えていくのを防ぐしかない。
そう、割り切る事にした。

* * * * * *

「又 難しい顔してるんだな」
アークに声を掛けられ、
ウーンは思わず彼の顔を凝視した。

「…そうか?」
「自覚無いかも知れないけどな。
 お前って、本当に辛い顔しかしないから」
「…自覚は無いな」
「まぁ、判らなくもない」
「?」

「お前にとって俺は
 『クリスタルマーカー』の兵士だもんな」
「…アーク、俺は……」
「まぁ、事実だから。
 でもさ、もう過去の話だから」

『過去』と言い切れるアークが
 時折とても羨ましく感じる。

周囲は彼を『クリスタルマーカー』の兵士だと見るだろう。
そして激しく憎悪を抱くだろう。
どれだけ彼が人々を救う為に闘おうとも。

だが、アークはそれでも良いと言う。
その気持ちがウーンにはまだ理解出来ない。
怨まれても尚、何故 民衆の為に闘えるのか。

何故、躊躇する事も無く
己の剣先を嘗ての仲間に向けられるのか。

「そんなの簡単な事だ」
「簡単?」
「俺にとっての仲間は、
 今一緒に冒険してる連中だからな」

この衝撃は
タラークと初めて会った時に似ている。

アークとタラークの話が合うのは
偶然では無いのだろう。
似ているのだ。
根本的な『何か』が。

そしてそれを自分は必要としている。

護れなかった嘗ての自分。
それを悔いても始まらない。
ならば、今度は護り抜けば良い。

ウーンの気持ちの中で
何かが少しずつだか変化して行った。
恐らく彼はまだ気付かない。
だが、それでも良いのだろう。

気付く事だけが理想ではない。
もう解っている筈だ。
その為に彼はこの大陸に来たのだから。

これ以上失わない為に。
奪わせない為に。
彼の旅はまだ、始まったばかりだ。

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