Act.7:Crystal-Maker

Urthr 編

数日掛けて訪れた場所は
既に廃墟となっていた。
真新しい焼け跡と水晶化した柱。

「この分だと…2~3日前だな。
 寄り道した分助かったと言うべきか、
 寄り道しないで激突した方が良かったか」

淡々と話すタラークだが
冷静な言葉とは裏腹に
激しい憎悪の念が伝わってくる。

「所々、隆起した地が水晶化を起こしている。
 相手が悪かったな」
「…ふん、何時かはぶつかる奴だ」

ウーンは暫し状況を確認する様に
視線を方々に移していた。

「雑兵は多いが、
 水晶化を起こせる奴はざらに居ない。
 魔法剣士を派遣してるって事だ」
「或いは…魔法剣を量産したか。
 どの道、良いアイデアでは無いね」
「タラークの言う通りだよ、全く…」

アークの後ろを着いて歩いていたキリークが
不意に眩暈を起こしてその場に伏せた。
音も無く、そのまま卒倒する。

「? キリークっ?!」
「どうした? 貧血か?」
「…判らん。急にだ」

アークは慌ててキリークを抱き起こすが
彼は全く反応しなかった。

* * * * * *

「急に呼び立てて済まない」

真っ白な部屋。
気が付いたら其処に居た。
仲間達は何処へ行ったのだろう。

「今、君は意識のみ此処に存在する。
 体は仲間達の所に在る。
 心配しなくても良い」
「…お前は?」

不思議な現象ではあるが
キリークは少しも不安ではなかった。
魔法使いの資質を秘めているからこそ
耐性は出来ているのだろう。

「僕は…バン。
 閉ざされた世界でのみ
 生きる事を許された存在」

「閉ざされた世界、此処が?」
「此処は僕の意識が生み出した空間だ。
 誰も僕に無断で入る事は出来ない」
「だから『心配は要らない』と言う事か?」
「そうだね。僕は君に危害を加えるつもりは無い」

「目的は何だ?
 俺を此処に呼んだ理由は?」
「一度、君と話したかった。
 紋章族の生き残りが居ると聞いて
 一度会ってみたかったんだ」
「…紋章族?」
「君は…自分の種族も知らなかったのか」

バンは数回頷くと、
音も立てずにキリークの直ぐ側に立った。

「君の体の左側に
 刺青の様な模様が有るだろう?」
「あぁ。生まれつきだ」
「心身共に成長し、魔力が充実してくると
 この模様が孵化するかの様に広がる。
 花が咲き乱れる様な見事な模様にね」
「…俺のはまだ『卵』なんだな」
「あぁ、今は…ね。
 しかし、秘められた資質は
 紋章が証明してくれている」

バンは一瞬だが目を伏せた。
キリークも、その仕草が何を意味するのか
言わずとも察した様だった。

「僕は…紋章族の事なら少しは知っている。
 多少の事なら、伝えられる。
 だから…君を呼んだんだ」
「……」

「僕は君の所に会いに行けない。
 君も今は僕と直接会わない方が良い。
 だが、僕は君に託したい。
 紋章族の事、魔法使いの事…」
「アンタ…?」

「時間が来た様だ。
 僕の今の力では長く君を引き止められない。
 必ず、また…君を呼ぶよ」
「バン…?」

バンの姿が光と合わさって
段々と薄らいでいく。
それを確認しながら、
キリークは自分が仲間達の元に
戻っていく感覚に目覚めていた。
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