Act.8:Memories・1

Urthr 編

目を覚ました時、
真っ先に目に飛び込んで来たのは
まるで泣き出しそうな表情のアークだった。

「アーク…?」
「キリークっ!!」

満足に動かない体を思い切り抱き締められ
どう反応すれば良いのか解らずに
キリークはされるがままになっていた。

「良かった、キリーク!
 お前が急に倒れるから…俺…」
「御免、アーク。心配させて…」
「もう良いよ。お前が無事なら…」

キリークは漸く安心する事が出来た。
優しくアークを抱き締め返すと
微笑を浮かべた。

「何処にも行かないよ。約束したから」
「キリーク…」
「覚えてる。助けてくれた時、交わした約束」
「俺も覚えてる。大切な約束だからな」

キリークは静かに目を閉じると
彼との出会いを思い出していた。

* * * * * *

「魔王?」

始めてその単語を聞いた時、
アークは正直「時代錯誤」だと感じた。

『クリスタル・マーカー』の練習生として
地元の支部の門を叩いてから1年。
その実力を評価され
今は最下級とは言え、
正式な兵として登用されていた。
俗に言う「末端警備兵」である。

「この時代に魔王…ねぇ」
「俺も最初聞いた時は嘘だと思ったさ。
 だけどな、そいつ…魔法を使うんだ」
「魔法?」
「そう、魔法。補助具無しでだぜ」
「成程、だから魔王か…」
「補助具無しで魔法を使うなんて
 人間の出来る業じゃないだろ?」
「……」

アークは恐れよりも先ず
興味が湧いてきた。
補助具無しで魔法を使う人間。
一体どんな人物なのだろう。

「で、上層部は何て?」
「正式な辞令は間も無く出るよ」
「討伐命令か」
「そう。アーク、お前は参加するのか?」
「何、強制じゃないの?」
「あぁ。希望を募るってさ」
「へぇ……」

選抜制じゃない事に安心した。
希望制と云うが、積極的ではないのだろうか。
いずれにせよ、自分は参加するだけだ。

「辞令、楽しみにしてるよ」
「大物だな、アークは…」

同僚に笑われながらも
アークの心は魔王討伐に向かっていた。

* * * * * *

周囲は木々も芝生さえも見当たらない
荒廃した砂漠地帯。
人が住んでいる気配は見当たらない。

「只の噂だったんじゃないの?」

同行した末端警備兵に愚痴をこぼし
アークは周囲を捜索し始めた。
左腕に装着している携帯端末
『DAM(デーモン・アナライズ・マシン)』には
魔法の探知反応が表れない。

「ん?」

そんな彼の目に留まったのは1人の青年。
随分擦り切れたTシャツとGパン姿。
この辺りでは見掛けない姿だ。

「お前、こんな所で何してるんだ?
 此処には魔王が出るって評判なんだぜ?」
「魔王…?」
「知らないのか?」
「…うん。俺、昔から此処に住んでるけど」
「へぇ…。やっぱり只の噂かな?」

話を交わしながら、アークの視線は
青年の肌に描かれた鮮やかな刺青に釘付けだった。
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