事件ファイル No.0-2

序章

「なぁ、ベルデ?」
「何?」
「ロッソって目が悪いの?」
「何で?」
「いや、いつも眼鏡をかけてるから…」
「あれ、伊達眼鏡よ」
「そうなの? 何で?」
「何でって…御洒落じゃないの?
 私も理由は聞いた事無いから知らない」
「あ…そうなんだ。それと……」
「まだあるの? 阿佐も物好きね」
「いや、ロッソじゃなくって…」
「誰? ゲール?」
「そうじゃなくて……」

そう語る俺達の横をヒョロっとした
顔の白い細身の男が無言で通り過ぎた。

「…あの人」
「【Siniyシーニー】ね。普段は顔出さないから」
「何やってる人?」
「部屋に引き籠ってPCパソコン弄ってる人」
「……」

ベルデの回答には『それ以上聞くな』と云う
無言の圧力が感じられた。
恐らくは一番年下と思われる彼女でさえ
時々発するこの威圧感。

『俺も一応現職の警察官なのに…』

立場が無い、そう思った。

* * * * * *

「賑やかやなぁ…」

買い物から帰り、自室でPCを弄りながら
呆れ顔でシーニーは一人呟いた。

「名前、何やったっけ?」
「阿佐」
「阿佐…。あぁ、有った。此奴コイツか」

モニターには制服姿の阿佐の写真が。
シーニーはいとも簡単に
彼の所属である警視庁のデータベースにアクセスしたのだ。

「へぇ~、此奴コイツ
 あの【水間みずま 次郎じろう】の直属の部下かいな。
 これ又 厄介やなぁ~」
「まぁなぁ~。
 そうは言っても水間程の厭らしさは感じないが」
「水間みたいな人間がゴロゴロ居ったら困るわ」

キーボードを数か所叩き、アクセスを遮断すると
シーニーはロッソやゲールに向き直った。

「誰が偵察に来ようが俺等は変わらん」
「そう言う事だ」
「ゲールも、そう思うか?」

ゲールは笑みを浮かべたまま数度頷く。
気持ちは同じだと伝えているのだ。

「シーニー」
「ん? 何や」
「依頼が来てる」
「ほぅ…」

ロッソに促され、再度モニターをチェックする。
Revenge bulletin board復讐掲示板】と銘打たれた画面に羅列する文字の数々。
吟味するかの様にシーニーは顎に手を当てて唸る。

「この依頼人の名前、確か…」
「あぁ、そうやな。
 【あの事件】の遺族か」
「確か証拠不十分で容疑者が釈放されてたよな」

ロッソの瞳の奥が怪しく輝く。

「ベルデには後で話しておくか」
身体からだでか? このド助平」
「…五月蠅ぇよ、シーニー」
「じゃ、作戦立てる為に情報洗い直すとしまっか。
 【Mementoメメント Moriモリ】久々の出番やな」

満足気に笑みを浮かべ、
シーニーは情報の波に飛び込んでいく。
そんな彼の姿を
仲間達も又、笑みを浮かべて見守っていた。
Home INDEX ←Back Next→