事件ファイル No.1-2

幼児連続虐待殺人事件

大丸おおまる 忠広ただひろの身辺調査、ねぇ~」
「ね? 阿佐は刑事なんだしパパっと出来ない?」
「え? 何でそんな事…」
「隠しても無駄だよ~。
 阿佐が実は刑事さんだって事、判ってるんだから」

何処で漏れたのだろうか。
隠していた筈の阿佐の正体が既に抑えられていた。
ニコニコしているベルデが怖い。
とぼけようとしても真面に受け答えしてくれず
身分を明かすのも止むを得ないと諦めた。
が、それだけでは済みそうもない。

「いや、身辺調査をパパッとって言われても
 ちゃんと各方面に許可を貰ってからでないと…」
「刑事なんでしょ?」
「だからさぁ。刑事だからこそ、その辺は…」
「な? 俺が言った通りだろ?」

ベルデの泣き落としに四苦八苦しつつも
要求に応じようとしない阿佐を横目で見つつ
冷ややかにロッソが言い放った。

「刑事だ何だと言ったって所詮はこんなもんよ。
 ハッタリばっかりで市民の為に何も働きゃしねぇ」
「…何だと?」
「へぇ~。じゃあ出来るとでも?」
「で、出来らぁ!!」
「ほぅ。口だけでないと証明してもらおうか」
「勿論だ!」
「約束は約束だ。此方も期限を付けさせてもらうぜ。
 【3日間】だ」
「う……」
「やっぱり口だけかい、刑事さん?」
「み、3日間だな! 待ってろよ!
 必ず耳揃えて出してやるからな!!」

言うが早いか、阿佐はその足で店を出て行った。
静かに見送っていた二人だったが
やがて顔を見合わせると爆笑した。

「まんまと成功したね。ゲールの作戦」
「な。彼奴アイツ、阿佐の特徴をよく見てたよ」
「本当。ゲールって凄い!」
「俺には無理な芸当だ」
「別に良いじゃない。
 ロッソにはロッソの特技が有るし」
「そう言ってくれるのはお前だけ」

ロッソはそう言ってベルデを抱き締めると
その頬に優しくキスを送る。
慣れた動作とはいえ、その度に彼女が頬を染めるのは
ロッソにとって至福の時間。

「さて。阿佐ならやってくれると信じて
 俺達も牙を研いでおくか」
「そうね」

* * * * * *

約束の3日後。

宣言通り、阿佐は大丸 忠広の情報を掻き集めて来た。
その中には大丸家の三人の子供に対する虐待証言や
今は拘置所に留置されている妻の証言も有った。

「流石はエリート警察官。仕事が違うねぇ~」

阿佐の好物であるケーキセットを用意し
手にした資料に目を通しながら
ロッソは彼なりの労いの言葉を送った。

「現場は忠広を今もマークしてる」
「行方不明の子の件でか?」
「あぁ」
「…その口調だと、尻尾は出してない様だな」
「残念だが、行方知れずの子の居場所ですら
 何の証拠も挙がって来ない」
「……この検死結果なんだけど」

資料を覗き込んだベルデが気になる箇所を読み上げる。

「『遺体の腹部が一部欠損』って何だろう?」
「あぁ、体液が付着してたとあったな」
「生前か死後かは知らんが、食ったんだろ?」
「「へっ?!」」
「体液ってのが唾液だとしたら、な」

ロッソはそう言うと、資料を持って店の奥へと向かう。

「ベルデ」
「何?」
「阿佐にもう少し、ケーキを振舞ってやれ」
「良いの?」
「俺からの褒賞ボーナスだ。
 好物の珈琲エスプレッソも付けてな」
「ロッソ! ありがとう!」

阿佐の嬉しそうな声に、ロッソはそのまま
片手を上げて応えた。
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