「ね? 阿佐は刑事なんだしパパっと出来ない?」
「え? 何でそんな事…」
「隠しても無駄だよ~。
阿佐が実は刑事さんだって事、判ってるんだから」
何処で漏れたのだろうか。
隠していた筈の阿佐の正体が既に抑えられていた。
ニコニコしているベルデが怖い。
とぼけようとしても真面に受け答えしてくれず
身分を明かすのも止むを得ないと諦めた。
が、それだけでは済みそうもない。
「いや、身辺調査をパパッとって言われても
ちゃんと各方面に許可を貰ってからでないと…」
「刑事なんでしょ?」
「だからさぁ。刑事だからこそ、その辺は…」
「な? 俺が言った通りだろ?」
ベルデの泣き落としに四苦八苦しつつも
要求に応じようとしない阿佐を横目で見つつ
冷ややかにロッソが言い放った。
「刑事だ何だと言ったって所詮はこんなもんよ。
ハッタリばっかりで市民の為に何も働きゃしねぇ」
「…何だと?」
「へぇ~。じゃあ出来るとでも?」
「で、出来らぁ!!」
「ほぅ。口だけでないと証明してもらおうか」
「勿論だ!」
「約束は約束だ。此方も期限を付けさせてもらうぜ。
【3日間】だ」
「う……」
「やっぱり口だけかい、刑事さん?」
「み、3日間だな! 待ってろよ!
必ず耳揃えて出してやるからな!!」
言うが早いか、阿佐はその足で店を出て行った。
静かに見送っていた二人だったが
やがて顔を見合わせると爆笑した。
「まんまと成功したね。ゲールの作戦」
「な。
「本当。ゲールって凄い!」
「俺には無理な芸当だ」
「別に良いじゃない。
ロッソにはロッソの特技が有るし」
「そう言ってくれるのはお前だけ」
ロッソはそう言ってベルデを抱き締めると
その頬に優しくキスを送る。
慣れた動作とはいえ、その度に彼女が頬を染めるのは
ロッソにとって至福の時間。
「さて。阿佐ならやってくれると信じて
俺達も牙を研いでおくか」
「そうね」
約束の3日後。
宣言通り、阿佐は大丸 忠広の情報を掻き集めて来た。
その中には大丸家の三人の子供に対する虐待証言や
今は拘置所に留置されている妻の証言も有った。
「流石はエリート警察官。仕事が違うねぇ~」
阿佐の好物であるケーキセットを用意し
手にした資料に目を通しながら
ロッソは彼なりの労いの言葉を送った。
「現場は忠広を今もマークしてる」
「行方不明の子の件でか?」
「あぁ」
「…その口調だと、尻尾は出してない様だな」
「残念だが、行方知れずの子の居場所ですら
何の証拠も挙がって来ない」
「……この検死結果なんだけど」
資料を覗き込んだベルデが気になる箇所を読み上げる。
「『遺体の腹部が一部欠損』って何だろう?」
「あぁ、体液が付着してたとあったな」
「生前か死後かは知らんが、食ったんだろ?」
「「へっ?!」」
「体液ってのが唾液だとしたら、な」
ロッソはそう言うと、資料を持って店の奥へと向かう。
「ベルデ」
「何?」
「阿佐にもう少し、ケーキを振舞ってやれ」
「良いの?」
「俺からの褒賞だ。
好物の珈琲も付けてな」
「ロッソ! ありがとう!」
阿佐の嬉しそうな声に、ロッソはそのまま
片手を上げて応えた。