事件ファイル No.1-4

幼児連続虐待殺人事件

深夜。

大丸 忠広の居宅から半径1km以内の
ラブホテルの一室。

「見える?」

目を閉じ、窓側に設置された椅子に
腰掛けたままのロッソにベルデが声を掛ける。

「…あぁ」
「次女、だったっけ?
 その子の居場所は?」
「……」
「ノーコメント…。
 期待するなって、事か……」
「一番最初の被害者は、まさかの次女だった」
「だから…何も見付からなかったのね」
「今のお前なら、【声】が聞こえる筈だ」

ロッソはそう言うと目を開けてベルデを手招きする。

「手伝ってくれる?」
「あぁ。任せろ」

伸ばされたロッソの手を強く握り締め
ベルデはそのまま彼の腕に包まれる。
そして眠る様に目を閉じた。

= …たい。痛い。お父さん、どうして? =

恐怖に染まった声が聞こえて来る。
泣き出す少女の声。
ゆっくりと床の軋む音。
見えずとも想像がつく。
声が段々小さく、か細くなっていき
やがて血を啜っているであろう音だけが
周囲に響き渡っていた。

「聞こえた、ロッソ?」
「…あぁ」

【目】と【耳】の情報を習得したロッソだけが
次女の悲劇を正確に知る事が出来た。
だからこそだろうか。
彼はそれ以上何も言わず、
黙ってベルデを優しく抱き締めていた。

* * * * * *

次の日。

大きなエコバッグを2つ持ってゲールは商店街を歩いていた。
相変わらず彼自身は何も話さないが
商店街の各店主達は皆、手慣れた感じだった。
彼が手にしている注文書を確認し
グラムを間違える事無く完璧な買い物をこなす。

「いつも買い物はゲールが?」

彼は黒いマスクを常時着けており
口元の動きを伺い知る事は出来ない。
しかし、その眼は優しく輝いており
嬉しそうにしているのが伝わってくる。

「重いだろ? 俺も持つよ」

そう言って声を掛けた俺に対して
ゲールは素早く手を動かした。

「(ありがとう)」

手話での礼。
彼らしいと、直ぐに感じた。
ゲールは俺の気持ちに応える様に
荷物一杯の鞄を1つ、然も軽い方を
俺に託してくれた。

* * * * * *

ゲールと共に買い物から戻ると
其処にはいつものメンバーの他に
シーニーも顔を出していた。

「阿佐。店仕舞いだ」
「はい?」
閉店CLOSEDのプレートを出して戸締りしておけ」
「そんな急に…」

困惑する俺を尻目に
ゲールが笑顔で頷くと閉店の用意を始める。
彼が指でOKマークを出すと
シーニーはテーブルに置かれたノートPCを操作し
壁に取り付けられたディスプレイに何かを映し出した。
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