大丸 忠広の居宅から半径1km以内の
ラブホテルの一室。
「見える?」
目を閉じ、窓側に設置された椅子に
腰掛けたままのロッソにベルデが声を掛ける。
「…あぁ」
「次女、だったっけ?
その子の居場所は?」
「……」
「ノーコメント…。
期待するなって、事か……」
「一番最初の被害者は、まさかの次女だった」
「だから…何も見付からなかったのね」
「今のお前なら、【声】が聞こえる筈だ」
ロッソはそう言うと目を開けてベルデを手招きする。
「手伝ってくれる?」
「あぁ。任せろ」
伸ばされたロッソの手を強く握り締め
ベルデはそのまま彼の腕に包まれる。
そして眠る様に目を閉じた。
= …たい。痛い。お父さん、どうして? =
恐怖に染まった声が聞こえて来る。
泣き出す少女の声。
ゆっくりと床の軋む音。
見えずとも想像がつく。
声が段々小さく、か細くなっていき
やがて血を啜っているであろう音だけが
周囲に響き渡っていた。
「聞こえた、ロッソ?」
「…あぁ」
【目】と【耳】の情報を習得したロッソだけが
次女の悲劇を正確に知る事が出来た。
だからこそだろうか。
彼はそれ以上何も言わず、
黙ってベルデを優しく抱き締めていた。
次の日。
大きな
相変わらず彼自身は何も話さないが
商店街の各店主達は皆、手慣れた感じだった。
彼が手にしている注文書を確認し
グラムを間違える事無く完璧な買い物をこなす。
「いつも買い物はゲールが?」
彼は黒いマスクを常時着けており
口元の動きを伺い知る事は出来ない。
しかし、その眼は優しく輝いており
嬉しそうにしているのが伝わってくる。
「重いだろ? 俺も持つよ」
そう言って声を掛けた俺に対して
ゲールは素早く手を動かした。
「(ありがとう)」
手話での礼。
彼らしいと、直ぐに感じた。
ゲールは俺の気持ちに応える様に
荷物一杯の鞄を1つ、然も軽い方を
俺に託してくれた。
ゲールと共に買い物から戻ると
其処にはいつものメンバーの他に
シーニーも顔を出していた。
「阿佐。店仕舞いだ」
「はい?」
「
「そんな急に…」
困惑する俺を尻目に
ゲールが笑顔で頷くと閉店の用意を始める。
彼が指でOKマークを出すと
シーニーはテーブルに置かれたノートPCを操作し
壁に取り付けられたディスプレイに何かを映し出した。