事件ファイル No.1-5

幼児連続虐待殺人事件

「阿佐は目にするの、初めてだよな」

ロッソの言葉に、俺は無言で頷いた。

「復讐掲示板への依頼や。
 内容は『大丸 忠広の殺害』」
「え? こんな物が実際に使われてるのかっ?!」
「世の中の裏なんざこんなもんよ。
 憎悪が渦巻いて死ねや殺せが踊り狂っとるわ」
「……そんな」
「【正義】なんてのは幻想やわな」

淡々とした表情でシーニーがキーボードを叩き出す。
様々な殺人事件の説明資料と状況証拠が
画面上に所狭しと羅列する。

「主犯は大丸 忠広で、尚且つ単独犯罪。
 被害者は奴の子供3人の他に
 近辺に住む現在行方不明の児童4人」
「確定か?」
「あぁ」
「じゃあその証拠を警察へ…」

俺はそう意見したのだが
彼等は全員、無言で首を横に振った。

「何故?」
「裁判で奴を確実に死刑に出来てりゃ
 依頼人だってこんな事はしなかったさ」
「しかしそれは…」
「現に奴の子供2人が犠牲になった事件でさえ
 検察は裁判にも上げなかったんだろ?
 確実に勝てないと判っていたから裁判を避けた」
「……」
「お陰で、奴は野放しになり犯行が重なった。
 近辺の子供達が行方を晦ましたのは
 大丸家の子供達が犠牲になってから。
 忠広を抑える事が出来れば防げたかも知れなかった」
「……」
「今頃そんな事言ってもしゃあない」

シーニーはそう言うと真っ直ぐに俺の目を見た。
心の奥まで見抜く様な鋭い視線に
思わず背中がゾクッとした。

「お目付け役。よぅ見とけ」
「シーニー…」
「奴を生かしといたら被害者は間違い無く増える」
「だが、裁判以外で人が人を裁く事は……」
「俺等は【人】やないからな」

シーニーはそう言って何かを見せた。
手帳の様な物。
俺が持つ警察手帳に何となく似ている。

「それは…?」
「【殺人許可証マーダーライセンス】だ。
 【NUMBERINGナンバリング】が持つ事の出来る
 『人を殺せる証明書』ってとこだな」

答えたのはロッソだった。
此処に居る全員が殺人許可証を所有している。
そして…俺の使命である彼等の監視を
少なくともシーニーは正確に認識していた。

「萎縮すんなや、阿佐。
 何もお前を取って食おうとしてる訳やない。
 俺等の【仕事】に全てを賭けてる人も
 この世界には大勢る訳や」
「シーニー……」
「いずれ解る。お前にもな」

俺は思わず、その場に居る全員の顔を見た。
ロッソも、ベルデも、ゲールも
そしてシーニーも無言で俺を見つめている。

「お前には、見届ける【義務】が有る」

静かに、ロッソがそう告げた。
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