事件ファイル No.1-6

幼児連続虐待殺人事件

数日後の深夜。

一人で街灯の切れた街を歩く大丸 忠広を
黙って見つめている人影。
その内の一つが微かにだが動いた。

「っ?!」

派手に転倒する忠広は自身の下半身に異常を感じた。
激痛。それに伴う吐き気。
ゆっくりと自分の頭上に近付いて来る人影。
忠広は腕を使い、恐る恐る顔を上げる。
黒ずくめの男が二人、目の前に立っていた。
漆黒のフルフェイスヘルメットに覆われ
その表情も読み取れない。

一人の男の腕には透明なビニール袋に
入れられた数々の骨があった。

「な……」
「何故それが此処に?」

忠広の心の声を聞いたかの様に
別の男が一言一句違わずに答えた。

「お前の家の地下室」
「……っ!」
「逃げ切る為の演技、御苦労さん。
 だが、その悪知恵も此処迄だ」

マスク越しに男に言い放つ
低く、ドスの利いた声。
ロッソである。
マスクの側部に走る赤いラインが
怪しく輝いている。

忠広の前髪を掴み、乱暴に引き上げると
ロッソは胸元から何かの写真を取り出して
忠広に見せつけた。

此奴コイツ等を知っているか?」
「…知らんっ」
「そうか」

ロッソの視線が忠広から背後に立つ
緑のラインを持つマスク姿の人物へ移った。
静かに頷いたのを確認し、ロッソも頷き返す。

「もうお前は用済みだ」

前髪を掴んだまま
ロッソは忠広の体を持ち上げていく。

「その体に、殺された子供達の無念を叩き込む」
「ひっ…、た…助けて……」

資料から見る完璧主義で冷酷な一面とは別の顔。
復讐掲示板で依頼人が残したもう一つのメッセージを
ロッソは脳裏に思い浮かべていた。

『私達の罪をこの世から消し去らなければと思いながら
 手を下せず、今迄来てしまいました。
 亡くなった全ての方々への償いは私達の生命で』

「死ぬ以外にも、罪は償えるんだがな…」

小さな声で呟いた直後、一呼吸置いてから
ロッソは驚く程の速さで複数のパンチを繰り出した。

* * * * * *

次の日。

最寄りの警察署に小さな箱が7箱届けられていた。
添えられたメッセージカード。
幼児連続虐待殺人事件で亡くなった子供達の遺骨。
還るべき場所へ還れる為に。

凶悪犯が裁きを受けたその場に初めて立ち会った俺が
被害者の子供達に出来る事はこの位しかなかった。
今日にでも忠広の遺体は発見され、
センセーショナルに大きく報道されるだろう。
だが、この事件はきっと迷宮入りになる。

【復讐】を人の形にした集団。
それが【Memento Mori】。

今日も彼等は【復讐執行人】の顔を隠し
何気無い笑みを浮かべて街の景色に溶け込んでいる。
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