事件ファイル No.10-1

ビル清掃員転落死亡事故 及び 甲斐 幸秀 失踪事件

いつまでも【コレ】を着けている訳にはいかない。
皆には『醜い跡が残ってしまったから』とだけ話してある。
扼殺やくさつされた際に出来た醜いあざ
でも、本当は…そんなもの、存在しない。
チョーカーの下に隠してあるものは…。

* * * * * *

「ロッソはさ」
「ん?」
「ベルデのチョーカーの下、見た事有る?」
「…有るぞ」
「そうなんだ」
「そりゃ、裸で寝てるからな。お互い」
「パジャマとか着ないのか?」
「SEXすりゃ脱ぐだろ?」
「ま、まぁそうだけど…。
 そのまま寝ちゃうの?」
「寝てるな。そのまま」
「じゃあチョーカーも取っちゃってる?」
「首元に愛撫する時、邪魔だろうが」
「痣とか、傷とか残ってるんだろ?
 ベルデ、嫌がらない?」
「俺だと平気みたいだぞ」
「…成程。
 本当に彼女は惚れてるんだな、ロッソの事
 一寸ちょっとだけ羨ましいよ」

ロッソは一瞬だけ眉を顰めたが
直ぐに笑みを浮かべた。
その一瞬だけ変わった表情が
阿佐には気になって仕方が無かった。

* * * * * *

やがて日が暮れ、就寝時間が訪れた。
どうにも寝付けず、
ベルデはバルコニーから海を見つめている。

「星か綺麗だな」
「晋司…」

彼は手にグラスを持って此方こちらへやって来た。
カランッと氷の音が響いた。

「こう云う綺麗な星空の夜は飲みたくなる」
「良いなぁ~、大人は!」
「…コーラだぞ? お前も飲めるだろ」
「……その言い方じゃ、お酒だって思うわよ」
「今度、一緒に飲んでみるか?」
「クリスマスでホテルに泊まった時みたいに?
 あの時に飲んだシャンパン、凄く美味しかった」
「銘柄は覚えてる。又 仕入れておくよ」
「ありがとう、晋司!」

ロッソからグラスを受け取り
ベルデは美味しそうにコーラを飲んでいる。
チョーカー越しに喉が動く。

「阿佐がな」
「?」
「チョーカーの下、気にしてた」
「…これ?」
「あぁ。痣を気にして着けてるって
 答えておいたから」
「…ありがと。いつも御免ね」
「いや。バレる訳にはイカンからな」
「うん…。
 それに、もし見られちゃったら
 きっと『不気味だ』って思われて
 嫌われちゃう」
「……」

違う、と言ってやりたい。
だが…実際に【ソレ】を見た阿佐や妙子が
彼女を『不気味だ』と言わない確証は無い。

「シーニーが言うには、最初から『在った』って…」
「恐らくは、再生した瞬間に出現したんだろうな」
「夢だと思ってたあの話も…本当の事だったんだね。
 そう考えると、全てに説明がつくの」
「『大河の側で出会った女神様』の話…だな」
「うん…。もう直ぐ消滅しちゃうからって
 私に力をくれた。
 自分の力を、紫色の綺麗な目に籠めて……」
「……」

ロッソは何も言わずにベルデのチョーカーを外す。
其処から現れたのは…
扼殺跡の醜い痣ではなく、
鮮やかな紫色の瞳だった。
ベルデはこの瞳を晒さない為に
いつも濃い色のチョーカーを身に着けていたのだ。

「俺は好きだぜ。この瞳」
「晋司…?」
「お前の目と同じ、優しい色をしてる。
 持ち主の女神様は、
 きっととても優しい心の持ち主だったんだな」
「私もそう思うよ…。だから、私達が蘇った」
「そう云う事だ」

ロッソは首元で瞬く瞼にそっと口付けを送ると
手にしたチョーカーを
再度ベルデの首に丁寧に着けた。
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