事件ファイル No.10-2

ビル清掃員転落死亡事故 及び 甲斐 幸秀 失踪事件

「えっ?」

部屋で一人、資料に目を通していた阿佐に
何かを差し出した手。
その持ち主の姿を確認し、
阿佐は思わず声を上げた。

「ゲール…?」

ゲールは笑顔で古い新聞を差し出している。
彼の顔に何か違和感を覚える。
そうだ。いつも着けている黒マスクが無いのだ。

「これ、読んで」
「ゲール? 声…。喋れる、のか?」
「うん…。黙ってて、御免なさい」
「いや、それは良いんだ……」

動揺を抑える事も出来ず
阿佐はかなり慌てていた。
ゲールは笑顔を浮かべ、椅子に腰掛けた。

「阿佐には、話す。
 僕の事件の事」
「ゲール……」
「知って欲しい。僕の事。それと」

直後、ゲールは彼らしくない鋭い視線を向けた。

「【研究所】の事」

* * * * * *

「先ず……
 ゲールの本名が【高須賀 研斗】だってのは…」
「本当だよ。
 だからあの時、【ケント】って名乗った」
「誰の提案だったんだ?」
「シーニー。
 偽名だと、僕が演技出来ないから」
「単刀直入に聞くけど」
「うん」
「これ、転落事件って事だけど…
 俺はゲール、いや高須賀さんが殺されたと思ってる」

ゆっくりと新聞記事を広げながら
阿佐は静かに自分の推理を口にした。

「清掃業って事だから
 色んな場所を掃除して来たんだろう。
 その際に、見てはいけないものを見てしまった。
 だから、口封じに殺されたんじゃないかって…」
「阿佐」
「証拠は無い。だけど…」
「僕が見たのは、
 治療カプセルの中で眠ってた女の子」
「それってまさか…【的場 志穂】、なのか?」
「彼女がそうだとは死ぬ迄知らなかった」
「そうか…。再生して復活して、
 シーニーから事実を聞かされたんだね」
「うん。シーニーは言ってた。
 彼女を守る事が、全てを守る事に繋がるって」
「全て…?」
「遺してきた、僕の家族」
「あぁ……」

阿佐は小さく声を上げ、頭を抱えた。
高須賀には、まだ血縁家族が存在する。
唯一の肉親を喪った鷹矢や志穂、甲斐とは違うのだ。
鷹矢達と比べれば寧ろ高須賀の方が
阿佐には近い立場となるのだろう。

「だから…【考え方】が近かったのかもな」

いつの間にか、NUMBERINGで在る事を
一括りにしてしまっていたらしい。
阿佐は大きく溜息を吐いた。

「今迄言葉を封じていたのは…?」
「守りたかったから」
「誰を?」
「ベルデ」
「それも、シーニーの指示?」
「指示もあった。
 でも、僕自身の意思もあった」
「ゲールの意思?」
「守りたかった。ベルデを。
 ううん…【志穂】って名前の女の子を。
 例えその子が『神様に成れる存在』だとしても」
「えっ?!」

阿佐は思わず声を上げ、慌てて口を塞いだ。
ゲールは表情を変えていない。
だがその瞳はとても悲しげだった。
Home INDEX ←Back Next→