事件ファイル No.10-10

ビル清掃員転落死亡事故 及び 甲斐 幸秀 失踪事件

上手く説明出来ないかも知れない。
そう前置きし、ゲールはこれ迄の経緯を話した。

ロッソがベルデに
G-Cellの秘密を打ち明けていた事で
シーニーの箝口令は意味を無くしている。
ゲールは自分の判断で阿佐と妙子に
全てを話すと決めた。
知る事が彼等を守る術となると信じて。

「ありがとう。正直に話してくれて」

妙子のその一言が、最初は理解出来なかった。
ゲールは目を白黒させながら彼女を見つめる。

「きっと、此処迄は誰も話してくれなかった。
 晋も、志穂ちゃんも。
 勿論…シーニーさんも……」
「俺達が思っている以上に
 まだまだ溝が深かったんだなって痛感したよ。
 それだけ、多分シーニーも皆も
 俺達を巻き込まない様に
 慎重に動いてくれたからなんだって事も
 解ってるけどね」
「妙子さん…。阿佐……」
「苦しかったよね、ゲール」
「……うん」

ゲールは泣いていた。
人前で涙を見せるなど、何年振りだろうか。

「ゲール。これ」
「?」

阿佐が差し出してきた一枚の写真。
其処に映る人々の顔。
ゲールは思わず阿佐を見つめた。

「今の高須賀家の皆さんの写真」
「どうやって…?」
「ちゃんとお願いして来たんだよ。
 …息子さんが実は生きてます、とは
 流石に言えなかったけどさ」

離れ離れになってしまった家族の事を
ゲールが今も心配している事は解っていた。
だからこそ、阿佐は今の彼等が
元気に暮らしている事を
何とかゲールに伝えたかった。

「御家族さんは今でも、研斗さんの事を
 片時も忘れず 思っておられたよ。
 俺が訪問した時も、研斗さんの好物なんだって
 お母さんが腕を振るってくれたんだ」
「……」
「御家族の事は、これからも俺が支援する。
 ゲールが俺達を守ってくれている様に
 今度は俺が、高須賀家の皆さんを守るよ」
「阿佐…。ありがとう……」
「そうよ、ゲール君。
 私達は仲間なんだもの。
 助け合わないとね」
「おともだちだもん!」

心細かった。
傷付いた仲間達の心の支えになる事も出来ず
離れ離れになっていく様な気さえしていた。
どうして良いか判らず、彷徨っていた
ゲールの心を救ってくれたのも
やはり【仲間】だった。

此処迄来ても何処かで不安定なままだった
ゲールの戦う意思。
流されるままに戦ってきた様な気さえしていた。
だが、もう今は違う。
彼には、彼だけの戦う理由が明確に出来た。

「皆を、仲間を守りたい。
 だから、僕は戦う」

そう言って、ゲールは笑った。
服の下に隠されていた
彼を意味するクワガタムシのエンブレムが
鮮やかに黄色く輝いていた。
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