事件ファイル No.10-9

ビル清掃員転落死亡事故 及び 甲斐 幸秀 失踪事件

「あぁ」

シーニーの疑惑に対し、ロッソが短く返答した。

「G-Cellに関してだ。
 以前から志穂はその正体を知ってる」
「なっ?! お前、バラしてたんかっ?!」
「あの話はベルデにはしないって
 皆で約束したのにっ!!」

シーニーが、ゲールが非難を浴びせる。
それでもロッソはまるで動じていない。

「じゃあどうやって説明する気だ?
 彼女の血肉を受けて俺達が蘇った事。
 そして、彼女の首元に存在する【瞳】の事」
「それは……」
「でも、だけど…」
「俺は志穂から女神の夢の話を聞いてたんでな。
 彼女を助ける為に自分の片目を差し出した
 【審判】を司る女神の話を」
「……」
「その女神がくれた瞳こそ、
 G-Cellの正体じゃないかって
 俺はずっと思っていた。
 奴等の解釈とは多少異なるがな」
「私も、ずっとそう思ってた…」
「…ベルデ」
「多分産まれる前から、決まってたんだね。
 私が女神様と出会う事も。
 その瞳を、能力を受け継ぐ事も…」
「……」
「だから、私と出会った所為で
 皆がこんな目に遭った……」

ベルデの目から大粒の涙が溢れ出す。
奥歯を食い縛り、
シーニーは突然ロッソの胸倉を掴むと
そのまま渾身の拳を彼の右頬に打ち込んだ。
大きな音を立て、ロッソの体が後方に飛ばされる。

「シーニー!!」

ゲールが慌てて倒れたロッソを助け起こす。
シーニーは肩で大きく息をしていたが
その殺気は収まる気配が無い。

「こうなるって解ってたからこそ…
 俺はお前等に箝口令を敷いたんじゃ…っ!!」
「……」
「何やってくれてんねん、鷹矢っ!!」
「何も言わず、何れ気付く時を呑気に待つってか?
 結局知った時に一番傷付くのは志穂なんだよっ!!」
「黙れっ! お前は…」
「もう止めてっ!!」
「「!!」」

口論を始めたロッソとシーニーの間に立ち
涙ながらにベルデは二人を止めた。
その瞳は紫色に輝いている。

「喧嘩しないで…。お願い……」
「「……」」
「お願いだから……」

そのまま、子供の様にベルデは泣き出した。

* * * * * *

ベルデ、ロッソ、シーニーは
その後 自室に引き籠ったまま出て来ない。
ゲールは一人オロオロしながらも
ホールの片付けをして気を紛らわそうとしていた。

「…ふぅ」

こんな風に険悪な雰囲気になった事は一度も無かった。
それだけに、彼もどうして良いのか判らないのだ。

『ベルデを守りたいって気持ちは同じ筈なのに…』

大きく溜息を吐いて俯いた彼の視線の先に
和司の優しい笑みが飛び込んで来た。

「和司君?」
「おてつだいするよ、ゲール」

顔を見上げると、和司の後ろには
妙子と阿佐がやはり笑顔で
ゲールを見つめていた。
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