其処で彼はロッソと酒を飲み交わしていた。
「そろそろ、【パンドラの箱】を開ける時か」
シニカルに笑みを浮かべるシーニーに
ロッソは無言でコップの酒を煽る。
「いつかは来ると思っとった。
寧ろ此処迄よく引っ張って来れたもんや」
「上出来だな。俺も、ゲールも」
「ホンマにな。感謝しとるわ」
今頃はゲールが阿佐に話しているだろう。
【Memento Mori】が生まれた理由。
そして、彼等が戦う真の目的。
「人工的に神を生み出す計画、か」
「人っちゅう奴は太古の昔から
やたらと神様を尊敬するかと思ったら
何故か神様の真似事に手を出しては
派手に火傷しとった」
「へぇ……」
「様々な経典に残っとるよ。
神様に怒られて仕置きを受ける
愚かな人間の姿」
「で、挙句の果てが……」
「ま。そう言う事や」
シーニーはそう言って目を細めた。
「甲斐」
「何や?」
「何処迄掴んでたんだ?
『生前の』お前は」
「…えぇ線いっとったと思うで。
G-Cellの存在と、
それを所有する女の子の情報迄は
辿り着いとったんやから」
「……」
「出来ればその子の家族ごと保護しようと
極秘に動いとったんや。
彼女が『利用される』前に」
「だが、GvDはその前に動いた」
「そうや。それからは誤算の連続。
何とかあの娘を取り戻さんとイカンと
柄にも無く慌ててなぁ」
「…志穂のG-Cellの事を知ってりゃ
そりゃ慌てるだろうさ」
「まぁな」
溶けた氷がカランと音を響かせる。
「GvDがお前を殺して志穂を奪還した」
「…あぁ」
「そして、保存カプセルで眠る志穂の姿を
偶然目にした高須賀が口封じに殺された」
「高須賀に関しては完全に貰い事故や。
「確かに、志穂の追跡をしていた俺達とは
事情が全く違う」
「……奴等は見境が無い。
志穂の存在をひた隠しにしてきた。
其処迄して志穂に執着した理由は……」
「……」
「生まれながらのG-Cell適合者」
「…下らねぇ」
「鷹矢……」
「志穂はそんなの望んじゃいねぇよ。
極普通の女子高生として
家族や友達と囲まれて…
幸せに暮らしたかっただけだ」
「……」
「許せねぇ…」
「あぁ。ホンマにな」
シーニーはそのままロッソを黙って見つめた。
いつのまにか彼の
「俺の目も『青く』染まってるんかね?」
「鏡見てみな」
ロッソの答えに対し、
シーニーは意味深に笑っただけだった。