事件ファイル No.10-3

ビル清掃員転落死亡事故 及び 甲斐 幸秀 失踪事件

シーニーの自室。
其処そこで彼はロッソと酒を飲み交わしていた。

「そろそろ、【パンドラの箱】を開ける時か」

シニカルに笑みを浮かべるシーニーに
ロッソは無言でコップの酒をあおる。

「いつかは来ると思っとった。
 寧ろ此処迄ここまでよく引っ張って来れたもんや」
「上出来だな。俺も、ゲールも」
「ホンマにな。感謝しとるわ」

今頃はゲールが阿佐に話しているだろう。
【Memento Mori】が生まれた理由。
そして、彼等が戦う真の目的。

「人工的に神を生み出す計画、か」
「人っちゅう奴は太古の昔から
 やたらと神様を尊敬するかと思ったら
 何故か神様の真似事に手を出しては
 派手に火傷しとった」
「へぇ……」
「様々な経典に残っとるよ。
 神様に怒られて仕置きを受ける
 愚かな人間の姿」
「で、挙句の果てが……」
「ま。そう言う事や」

シーニーはそう言って目を細めた。

「甲斐」
「何や?」
何処迄どこまで掴んでたんだ?
 『生前の』お前は」
「…えぇ線いっとったと思うで。
 G-Cellの存在と、
 それを所有する女の子の情報迄は
 辿り着いとったんやから」
「……」
「出来ればその子の家族ごと保護しようと
 極秘に動いとったんや。
 彼女が『利用される』前に」
「だが、GvDはその前に動いた」
「そうや。それからは誤算の連続。
 何とかあの娘を取り戻さんとイカンと
 柄にも無く慌ててなぁ」
「…志穂のG-Cellの事を知ってりゃ
 そりゃ慌てるだろうさ」
「まぁな」

溶けた氷がカランと音を響かせる。

「GvDがお前を殺して志穂を奪還した」
「…あぁ」
「そして、保存カプセルで眠る志穂の姿を
 偶然目にした高須賀が口封じに殺された」
「高須賀に関しては完全に貰い事故や。
 彼奴アイツが殺される筋合いは無い筈やった」
「確かに、志穂の追跡をしていた俺達とは
 事情が全く違う」
「……奴等は見境が無い。
 志穂の存在をひた隠しにしてきた。
 其処迄して志穂に執着した理由は……」
「……」
「生まれながらのG-Cell適合者」
「…下らねぇ」
「鷹矢……」
「志穂はそんなの望んじゃいねぇよ。
 極普通の女子高生として
 家族や友達と囲まれて…
 幸せに暮らしたかっただけだ」
「……」
「許せねぇ…」
「あぁ。ホンマにな」

シーニーはそのままロッソを黙って見つめた。
いつのまにか彼の虹彩こうさいは赤く染まっている。

「俺の目も『青く』染まってるんかね?」
「鏡見てみな」

ロッソの答えに対し、
シーニーは意味深に笑っただけだった。
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