事件ファイル No.10-5

ビル清掃員転落死亡事故 及び 甲斐 幸秀 失踪事件

「水間」

ベルデの呼び掛けに、脅えた様な視線を返す。
呼ばれた水間は、まるで幼子の様だった。

「貴方が本当は何処の所属で、何を隠しているのか。
 私は、何となくだけど判ってる」
「……」
「ロッソやシーニーの事件は、避け様が無かった。
 だけど、ゲールの…高須賀さんの件だけは違う」
「あの男は、治療カプセルから君を持ち出そうとした」
「だから…殺す事にしたの? 口封じで?」
「…そうだ」
「直接手を下したのは…貴方なの?」

ベルデの表情が険しくなる。
水間が言い淀み、両目を伏せた直後。

其処迄そこまでだ」
「ロッソ!」
「?!」

追跡して来たロッソがベルデに合流した。
少し強引に彼女の体を抱き締めると
ロッソはその鋭い視線を水間へと向けた。

「妙子から聞いてな。後を追い駆けた」
「心配して来てくれたのね。
 ありがとう、ロッソ……」
「……」
「【声】で彼女を呼び出したのか」
「【H-S-K】、貴様に用は無い」

H-S-Kと呼ばれ、ロッソはその眼を大きく見開いた。

「遂に本性を表しやがったか。
 【GvDのいぬ】が」
「黙れ、【危険分子】。
 貴様だけは早めに処分をしておくべきだった」
「出来るもんならやってみな」

ベルデを抱き締める腕に力を籠め
ロッソは殺気を放っている。

「GvDを敵に回したまま生きていけると思うな。
 貴様等の行動は全て、GvDが管理している」
「だからどうした?
 既に死ぬ権利さえ失った
 俺達に対する最後通告のつもりか?」

事と次第によっては此処で戦う事も辞さない。
ロッソには其処迄の覚悟があった。
ベルデが止めなければ、実際に戦っているだろう。

「何故 其処迄出来る?」
「はっ?」
「一人の女の為に、
 何故 其処迄、己の全てを投げ出せる?
 そのが、自分の気持ちに応える事等
 無いかも知れないと言うのに」
「お前は、相手が自分に100%答えてくれなきゃ
 一歩も動けないって言うのかよ。
 へっ、臆病者の言う台詞だな」

莫迦バカにした様な表情を浮かべ
ロッソは短くこう言い切った。

「『志穂だから』だよ」
「彼女がG-Cell保持者だから、と云う意味か?」
「莫迦じゃねぇの?
 そんなのどうでも良い。
 俺にとって必要なのは的場 志穂であり、ベルデだ。
 俺が心底 惚れた女が此処に居る。
 それが俺の戦う意味、存在意義の全てだ」
「……理解出来ん」
「されたくもねぇ」
「ロッソ…」
「帰りに何処か寄ろうか?
 皆に土産でも買って帰ろうぜ」
「…そうね」
「待て! まだ話は終わっていない!!」
「お前とは話にならねぇ」

振り返る事無く、ロッソは言い切った。
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