事件ファイル No.10-6

ビル清掃員転落死亡事故 及び 甲斐 幸秀 失踪事件

その日の晩、シーニーの部屋で
【Memento Mori】メンバーだけが集まった。

「そうか。遂に水間が動いたんか…」

シーニーはそう言うと煙草に火を点け
大きく紫煙を吸い込んで吐き出した。

「ベルデに直接接触して来るとはなぁ」
「大丈夫だった? ベルデ」
「大丈夫よ。最初から話を聞くだけだったし」
「肝心の話は聞けたんか?」
「…半分位は」
「何を聞こうとしたの?」

ゲールからの問い掛けに
ベルデは申し訳無さそうに答えた。

「ゲール。貴方の、いえ…
 高須賀さんの死に関して」
「そんな危険を冒してまで聞く事じゃないよ!」
「大切な事なの。私にとって……」

ベルデを守りたいゲールと
ゲールの死の原因を明確にしたいベルデ。
二人の互いへの気持ちが解るだけに
困惑した表情を浮かべて
ロッソとシーニーは互いの顔を見合わせている。

「水間の話し振りから察すると…
 高須賀さんのザイルを
 意図的に切ったのは間違いなさそう。
 その実行犯は……」
「水間、か」
「恐らくは…」

シーニーが大きく溜息を吐いた。

何処迄どこまで腐っとんねん、彼奴アイツは…っ」
「シーニー?」
「あの時、彼奴アイツに『志穂を任せた』のは…
 間違いやったって事やな……」
「シーニー。お前、水間の事…」
「あぁ、よぅ知っとるよ。
 多分…お互いにな」
「元同僚、とか?」
「公安時代の元相棒や」
「「……」」
「奴の本名は【阿倍あべ 亮平りょうへい】。
 公安時代には何故か
 【瀬戸せと 亮兵りょうへい】と名乗っとったけどな」
「それが今や水間 次郎…か。
 どう云う意図で改名を繰り返してんだか?」
其処迄そこまでは流石の俺でも解らんわ」

ベルデは黙ったまま仲間達を見つめている。
水間と語ったあの時間、あの空間に察した
違和感を思い出しながら。

「ベルデ?」

彼女が会話に参加していない事に気付いたのか。
ロッソは優しく彼女に呼び掛けた。

「どうした?」
「…ん。少し、考え事をしてた」
「考え事?」
「うん。公安警察官だった人が
 どうしてこんな簡単にGvDに取り込まれたのか。
 そして最終的には、シーニー…
 甲斐さんを裏切る形になってるのに」
「言われてみれば、確かに…」
「GvDがどんな条件を出して彼に接触して来たのか。
 それが判れば、何か動きが有るんじゃないかって…」
「……」
「シーニー…」
「俺の知らんかった彼奴アイツの【タブー】か…」
「「……」」
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