事件ファイル No.10-7

ビル清掃員転落死亡事故 及び 甲斐 幸秀 失踪事件

一方その頃。

「ここ最近ね」

妙子はテーブルでお茶を飲みながら
阿佐に声を掛ける。

「はい」
「皆の笑顔が少なくなった様な気がしてきて…」
「やっぱり、妙子さんもそう思います?」
「えぇ…。阿佐君も気付いてたのね」
「そりゃ解りますよ。
 それなりに長い付き合いになってますし」
「そうよね。特に晋は顕著だから…」
むしろ、ベルデの方が笑わなくなってる様な…」
「志穂ちゃんの方が?」
「はい。前はもっと元気に笑うだったのに…」
「阿佐君は…」
「?」
「志穂ちゃんの事、好きなの?」

思ってもみなかった質問に
阿佐は思わずコップを落としそうになった。

「ご、御免なさい!
 そんなつもりで聞いたんじゃないの…」
「いや、僕の方こそ取り乱したりして…」
「……」
「……妙子さん。
 僕ね、此処に来たのは勅命でなんです。
 彼等の、【Memento Mori】の行動を監視して
 逐一 上層部に報告する事を厳命されてました」
「それって…スパイ、って事?」
「そうです」
「そんな大切な事、安易に私に話しても良いの?
 晋や志穂ちゃんに告げ口するかもしれないのに…」
「彼等には既に知られてます。大丈夫ですよ」
「でも……」
「彼等は、僕がスパイであるのを承知の上で
 仲間として迎え入れてくれた」
「……」
「僕にとっても、今の仲間は【Memento Mori】です」

阿佐はそう言って優しい微笑みを浮かべた。

「阿佐君……」
「或る時期から、僕は情報を上げてません」
「…大丈夫なの? そんな事して……」
「大丈夫ですよ。
 元々違法ギリギリの命令なんですから。
 僕の動きが気に入らなけりゃ
 懲戒免職にでも何でもしてくるでしょうし」
「阿佐君……」
「僕は、僕の【正義】を信じます」

阿佐は信念を持って行動している。
真っ直ぐに妙子を見つめる力強い視線。
揺るがない意志の強さに
妙子は満面の笑みで答えた。

「例えどんな結末が待っていようとも…」
「……」
「僕は、僕の仲間を信じます。
 己の全てを賭けて」
「そうね。そしてそれこそが…
 彼等を守る【盾】となる」
「その通りです」

大切な人々を守る為に。
【Memento Mori】と彼等の戦う理由は同じ。
そして、大切な人を思う気持ちが
『好き』という言葉で表せるのであれば
間違いなく彼等は好きなのだ。
【Memento Mori】のメンバーを。

「同じ考えの人がこんなに近くに居てくれて
 これ程、心強い事は無いわ」

そう言って笑う妙子に励まされている事実。
阿佐はこの時、彼女に対する想いの変化に
気付き始めていた。
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