事件ファイル No.11-1

的場一家虐殺事件・後編

今から4年前。
俺達は、或る場所で出会った。
そして……。

* * * * * *

「教えて欲しい事が有るの」

彼女にそう声を掛けられた時は
何事かと思った。
シーニーには断られそうだと云う事で
俺に相談を持ち掛けたらしい。

「研究所のPCにアクセスする方法を教えて」
「何か調べ物?」
「うん。知りたい事が有るの」

彼女は少しだけ言葉に詰まり、下を向く。

「…【私】の事」
「……」
「気になる事が有るの。
 私の能力、とか」
「…良いぜ」
「本当?」
「あぁ。シーニーとゲールには内緒、な」
「うん。勿論」
「じゃあ、行こうか」

俺は中央制御室に在るPCではなく
敢えて補助的に置かれていた
旧式PCの部屋へと案内した。
これは以前シーニーから聞いていた
奴等研究員の目を掻い潜る抜け穴なのだ。

「俺のコードでは侵入出来ないって
 以前シーニーが言ってたからなぁ…」
「そうなの?」
「あぁ。要注意人物として
 目を付けられちまってるから」
「それなら私のコードは?」
「何も問題無いと思うぜ」

ベルデは慣れた手つきでPCを操作すると
簡単に様々なセキュリティーを看破していった。
正直、彼女が此処迄出来るとは
思ってもみなかった。

「ロッソ…。これ、何だろう?
 G-Cell…? 神の遺伝子って……」
「……」
「知ってる?」
「…聞いた事がある程度だ。
 詳しくは俺も知らない……」
「そう……」

ベルデがG-Cellの情報を入手した事で
【Memento Mori】三人の間に存在する
箝口令は事実上無効となった。
彼女は熱心に画面上の情報を読み解いている。
何せ名門進学校に在籍していた才女だ。
その気になればどんな未来も用意されていた筈。

【あの事件】さえ無ければ……。

* * * * * *

「ロッソ」
「何だ?」
「この情報、シーニーにコピーしてもらおう」
「…良いのか?
 お前がこの情報を掴んでいると
 他の連中に知られるのは拙い」
「シーニーやゲールも?」
「…念の為だ。
 シーニーには俺から伝えておく」
「良いの?」
「構わねぇさ。
 元々俺はこう云う危険な橋を渡るタイプの様だし」
「……」

本来ならロッソにこの様な役は頼みたくない。
その所為で彼は今迄散々な目に遭って来ている。
幾ら本人から平気だと言われても
流石のベルデも返答に困っていた。

「心配するな。俺なら大丈夫だ」
「ロッソ…」
「信じてくれ」
「…解った。お願いね」
「あぁ。任せろ。ヘマはしねぇから」

満面の笑みを浮かべるロッソに頷くと
ベルデも又 微笑みで返した。
Home INDEX ←Back Next→