事件ファイル No.11-3

的場一家虐殺事件・後編

「倒せるかもしれない。私達なら」
「え?」
「…【私】なら、その術が有る」
「「……」」
= ベルデ…… =
「女神様が私にくれた能力は…
 飛行能力を齎す白と黒の羽根。
 傷付いた者を癒す再生能力。
 そして……」
「そして?」
「穢れしモノを滅する、裁きの炎」
「……成程」

ロッソは合点がいったらしく、
フッと口角を上げて笑った。

「この勝負。俺達の【勝ち】だな」
「戦う前からかいな?」
「あぁ。人では持つ事さえ許されない
 最大の武器が此方には在る」

ロッソはベルデに近付くと
耳元にそっと囁いた。

「弓道、やってたんだって?」
「ロッソ?」
「こう云う力はイメージすると
 コントロールし易いらしいぜ」
「…そうなのね」

ロッソはいつもと同じ
優しい微笑みを浮かべている。
ベルデは静かに頷くと
自身の左手を握り締め、念じた。

= ?! =
「これ…は……?」
「これが俺達の【奥の手】だ」

自信満々に語るロッソを
シーニーは半信半疑で眺めている。
ベルデの左手から現れたのは
白銀に輝く弓矢だった。

「シーニー。
 さっき此奴コイツに弱点は無いって言ってたな」
「あぁ、確かにそう言うたけど…」
「急所ならある筈だ。
 此奴コイツも生命体って言うのなら」
「…ほぅ?」
= 急所と弱点って…どう違うんだろ? =
「毛髪の様な触手が邪魔で捕獲し辛いが…
 眼球の部分に矢が到達すれば、どうだ?」

シーニーの目が怪しく光る。
彼はゲールから手渡された小型PCを器用に操り
何かの計算式に没頭していた。
暫く無言の時間が流れる。

「出た。ロッソ、お前の狙い通りや。
 ベルデの弓矢なら、奴を焼き尽くせる」
「ほらな。俺の言った通りだろ?
 この世の中はなぁ、悪い事なんて
 ずっと出来ないもんなんだよ」

ロッソとシーニーは顔を見合わせると
まるで少年の様に大声で笑い出した。

= シーニー? ロッソ? =
「行ける! 行けるで、俺等っ!!」
「あぁ。こんなしみったれた所とは
 さっさとおさらばしねぇとなっ!」

こんな上機嫌な二人を見るのは初めての事。
だが、悪い気分じゃない。

「ロッソ……」
「外の世界へ行こう、ベルデ。
 俺達は一生をこんな場所で終わらせたくない」
「…うん」
「大丈夫や、ベルデ。
 俺等も付いとる。心配要らんで」
= 僕も傍に居るよ、ベルデ。
 一緒に行こう! =
「シーニー…。ゲール……」

握り締める弓矢からは
鼓動の様な振動が伝わってくる。
力強い、躍動感溢れるリズム。
ベルデは視線を仲間達に向けた。
自信に満ち溢れた彼等の表情が
弓矢の振動とリンクしている。

「…行こう。外の世界へ」

それが何を意味しているのか。
理解出来ない四人ではない。
この研究所との決別は即ち
研究所や組織を取り纏めている
GvDとの決別を意味する。

それでも彼等はこの決断を下した。
自分の為に。仲間の為に。
そして、外の世界に残して来た
大切な人々の為に。
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