事件ファイル No.11-6

的場一家虐殺事件・後編

核子は一体だけではなかった。
シーニーが相対した物以外に
少なくとも、まだ三体存在していた。

「シーニーの言う通りだな!
 通常の攻撃じゃ埒が明かんっ!!」

= 解除で切り抜ける事が出来れば、勝てるっ?! =

ロッソとゲールは解除を用いる事で
何とか五分五分の戦いを繰り広げている。
パワーファイターであるこの二人で漸く対等。
どちらかと言えば頭脳派で
スピードタイプのシーニーが苦戦するのは
当たり前の事だろう。

「ヤバッ!」

力での勝負では押されっぱなしだ。
一旦回避し、体勢を立て直すと
シーニーは再度照準を合わせた。
すると。

= 伏せてっ! =

脳裏にベルデの声が響く。
その声に合わせて、
瞬時にシーニーが身を屈めた。
次の瞬間。

壁を通り抜けて、核子の弱点である
眼球に突き刺さる炎の矢。
矢は炎の柱と姿を変え、
そのまま核子を包み込んでいく。
業火の柱は勢いを増し、
やがて核子を燃やし尽くした。

「ベルデ…。助かったわ」
「大丈夫だった?」
「おおきに。俺はこの通り無事やで。
 はよ後の二人の救援に向かおう」
「うん……」

そう返答したベルデだか元気が無い。
無理もないだろう。
周囲には絶命し、横たわる
研究員達の死体が所狭しと転がっている。
これ等は全て、シーニーがほふった者達だ。

この作戦に於いて彼はロッソとゲールに対し
研究所内の皆殺しは
自分達【Memento Mori】が引き受ける事、
ベルデは核子との戦いに専念させる事を厳命した。
ロッソとゲールはその件を快諾したが
ベルデだけは最後まで納得しなかった。
彼女の優しさが遺恨となってはならない。
ロッソは彼女を返り血で穢したくないと
必死にベルデを説得し、納得させた。

「汚れ役は俺達だけで充分だ」

シーニーの、ゲールの気持ちを
ロッソはこの言葉で代弁し、ベルデを黙らせた。
彼等の、ベルデを想う気持ち。
それがベルデに通じたのだろう。
彼女は涙を流しながら、それでも肯定の意味で頷いた。

「……行こう、シーニー」
「ベルデ…」
「この研究所に、まだ核子が残ってるなら…
 全て焼き尽くさないといけない」
「あぁ…。そうやな」

差し出されたベルデの手を掴み
シーニーがゆっくりと立ち上がる。

「『私が』倒さないと。核子を…」
「……」

白銀に輝く弓を握り締め、
ベルデは俯きながらそう言った。
その声のトーンは使命感からではなく
罪悪感からの響きに聞こえた。

『ベルデは…、いや 志穂は…
 全てを知ってしまっとるんやろうか?』

それを確認する事が怖かった。
だからこそ、ずっと聞けずにいた。
シーニーが心に残したままの疑問は
数年後、意外な形で解消される事になる。
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