其処に薬品と油の臭いも混ざり
悪臭が充満していた。
ゲールは顔を顰めながらも
何とか倒した核子の状態を確認している。
= 不完全体なら、打撃だけでも倒せそう =
初めての戦いにしては上出来だっただろうか。
そう思い、彼は立ち上がって踵を返した。
しかしその直後。
= っ?! =
触手がゲールの首に巻き付いて来た。
まるで機械の様にグイグイと容赦無く
触手はゲールの首をへし折らんばかりに
巻き付いている。
ゲールは何とか触手を外そうと
彼の力が入る程、
触手の巻き付きも強くなっていく様だった。
「ゲールっ!!」
部屋に飛び込んで来たのはロッソだった。
ゲールの状況を瞬時に判断し
ロッソは蹴りで器用に触手を切断した。
「大丈夫か、ゲール?」
= ありがと…ロッソ…。何とか、大丈夫… =
「まだ油断出来ねぇな。
あまり無理すんなよ」
= うん…… =
ピクピクと動く核子の眼球を
ロッソは憎々し気に踏み潰した。
ブシュッと云う異音と共に
核子の赤い体液がロッソの頬を穢す。
「やはり急所は眼球…だな。
其処さえ破壊出来れば再生は無い」
= 不完全体なら、打撃でも効果は有った…。
僕達の力だけでも、何とかなりそう =
「そうだな。問題は完全体だ。
触手の攻撃パターンも増えているだろう」
= 眼球に攻撃が届かない可能性も… =
「当然、その可能性は高いだろうな」
顔に付いた汚れを拭う事も無く
ロッソは淡々と述べると
静かに周囲を見渡していた。
「…鬱陶しいなぁ、あのアラーム。
本店へ救援信号のつもりか?」
= そうかもね =
「……」
ロッソは部屋のコンソールボックスに
渾身の拳をお見舞いした。
派手な火花を散らすと、
制御装置は音を立てて爆発を始める。
= パワフルだね、ロッソ =
「ムカついてたからな」
= …そりゃそうか。
ずっと目を付けられてたし =
「最後位大暴れしても良いだろ」
= ベルデが見たら何て言うだろう? =
「……惚れ直すんじゃない?」
= 逞しい、とかって?
乱暴者とかじゃなくて? =
「……ゲール。
お前、俺をそんな目で見てたんだ?」
= 僕は暴れてなかったからさ =
「それで満足だったの、お前?」
= 全然。ずっと我慢してた =
「じゃあ、今発散しちまえよ。
外の世界じゃ又 我慢の連続だぞ」
= それもそうか。そうだね。じゃあ… =
そもそもこの反乱の目的の一つに
研究所の破壊が含まれていた事を思い出し
ゲールは開き直ったかの様に
ロッソに並んで機材や装置の破壊工作に乗り出した。