事件ファイル No.12-10

Rosso 破壊命令

水間は背後に数人、黒服を従えている。
生体反応が薄い事からして
恐らくは人形ひとがただろう。

「濱嶋 和司君の身柄は、此方が預かっている」
「な…っ?」
「貴様の関係者である以上
 我々も彼を管理下に置かないといけないのでね」
「和司は関係無ぇだろうっ?!
 彼奴アイツは妙子の一人息子だぞっ!!」
「そして、『お前の遺児』だよな?
 鷹矢 晋司」
「俺はNUMBERINGの【Rossoロッソ】だっ!!」
「…まぁ、良い。
 お前がどれだけうそぶこうとも
 あの少年がどう云う経緯で生まれて来たのか
 調べれば済む話だ」
「…っ!!」
「判ってるだろうな?
 お前に『選択肢は無い』」

水間はサッと右手を上げた。
黒服が素早く動き、
ロッソの腕を後ろに引っ張ると
電子手錠でそのまま拘束した。

「いっ! な、何しやがるッ!!」
「暴れるな。大人しく我々と一緒に来てもらう」
「…其処に和司が居るんだろうな?」
「関係無いのだろう? あの少年とは。
 そんなに気になる存在なのか?」
「五月蠅ぇ! んな事、俺の勝手だろうがっ!!」

拘束され、押さえ付けられた状態でも
まだロッソは幾らでも反撃に出るつもりだ。
それが、離れて立っていてもよく判る。

「大人しくしろ、H-S-K。
 和司少年の生命が惜しくはないのか?」
「な…っ」
「そうだ。最初からそうしておけば良い」
「ぐあぁーーーッ!!」

首元に何かを押し付けられた瞬間
強烈な電流を感じる。
その直後、彼は白目を剥いて倒れた。

「気を失った様だな。
 改造したテーザー銃ならば
 コレを簡単に捕縛出来ると思ったが」

うつ伏せで倒れているロッソの肩を蹴り上げ
仰向けの状態にして見下ろすと
水間は満足気に微笑んだ。

「同じなんだよ、貴様は。
 この俺と同じ。
 『望まれなかった子供』なんだ」

意味深にそう呟くと
水間は黒服に指示を出した。
通行人が誰も居ない路上で
ロッソが忽然と姿を消したのは
この様な顛末であった。

水間は、ロッソの和司を思う【父性】を利用した。
大切な存在の為ならば
どんな状況に置かれても戦う事を諦めない。
そんな彼の特性を逆に利用したのだ。

「望まれずに産まれて来た者が
 今更、人の親気取りか。
 全く、わらわせてくれる」

車内で水間は
心底莫迦にした口調で
気を失ったままのロッソを
冷ややかに見つめる。

「鷹矢 晋司。
 貴様には人の親になる資格など無いんだよ。
 貴様も俺も、
 この世に生まれて来てはいけない存在だった」

憎々しげに言い放つ
水間の心中は穏やかではなかった。
Home INDEX ←Back Next→