事件ファイル No.12-9

Rosso 破壊命令

コンクリート打ちっ放しの殺風景な部屋。
窓も無く、唯一 電球の灯りが
心許なげに部屋を照らす。
両手両足を拘束されたまま
絶叫を上げ続ける男の姿を
水間は満足そうに見つめていた。

「相当苦しそうだなぁ、H-S-Kぃ?」

天井と壁に繋がっている太い鎖が
盛んにジャラジャラと音を立てていた。
しかし、義手と義足を取り上げられた状態で
拘束されているロッソにはどうする事も出来ない。
生身部分を強引に引っ張られ
空中に吊られた状態で
長時間殴られ、蹴られ続けた全身は
殴打痕でどす黒く変色している。
絶叫で喉が切れているのだろう。
口の端から泡交じりの血が垂れている。
何度も吐血をしたのか、
床にはおびただしい血溜りが出来ていた。

「まさか義肢が遠隔操作で外れるとは
 思ってもいなかった様だな。
 そりゃそうだろう。
 お前と同じKreuzクロイツでなければ
 ロックの外し方など知らんのだからな」
「……っ」

ゼェゼェと荒い呼吸をしながら
それでもロッソは水間を睨み付けていた。
此処迄痛めつけられても
まだ彼は水間に許しを乞う事は無い。
それが、水間には何よりも癪に障った。
ロッソの前髪を乱暴に掴むと
そのまま強引に顔を引き上げた。

「貴様が幾ら最強の戦士と呼ばれても
 手足をもがれた今の状態では何も出来まい!」
「…かず…し、どこ…やっ……」

微かに聞こえる程度の声で
ロッソはそれでも和司の安否を
確認しようとしていた。

* * * * * *

和司を保育園に迎えに行く事は
今迄も再三有った。
あまり外出するのは好きでないロッソだが
和司の送り迎えだけは密かに楽しみにしていた。
跳ぶ様に此方へ駆けて来る
和司の満面の笑みを見るのが好きだった。

例え、父親と名乗れなくても
せめて父親らしい事はしてやりたい。
自分が味わえなかった思いを
和司には一杯体験させてやりたい。

「ん?」

道中、目の前に黒塗りの大きな車が現れた。
気にする事無くそのまま通り過ぎようとすると。

「鷹矢 晋司」
「?!」

不意に【本名】で呼び掛けられ
思わず肩が動いた。
何者かと其方に視線を向けると。

「…水間」
「奇遇だな。散歩か?」
「テメェには関係無い」
「…有るかも知れん、と言ったら?」
「はぁ? 巫山戯てんのか?
 俺は急いでんだよ。忙しいの!」
「和司君の事、かい?」
「?!!」

ロッソは鬼の形相で水間を睨み付ける。
彼は涼し気に笑いながら
ゆっくりと車を降りて来た。
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