意識は遥か前から朦朧としていて
自分がどんな状態なのかすら判断出来ずにいる。
この荒い呼吸音は自分のものなのか。
それも、定かではない。
この様な状況で、真面な思考が働く訳もなく
ロッソはボンヤリとした視線を天井へ向けていた。
先程迄の執拗な拷問が去れば
只 孤独と静寂の時間が流れるのみ。
彼にとってはこの時間が耐え切れぬ程に辛かった。
過去の辛い記憶が引っ切り無しに蘇ってくる。
痛みや苦しみで悶えている方が
いっそ、何も考えずに済む分 マシだった。
「…怖い」
ボソッと、ロッソは本音を漏らした。
誰にも言えずに来た、孤独に対する恐怖心。
鷹矢 晋司として、最期を迎えた
漆黒の闇を思い出し
彼は更に恐怖心を募らせていた。
「……助けて、くれ」
弱々しい声で呟き、一筋の涙が頬を伝う。
「たすけ、て……」
それは本当に彼の【声】なのか。
それは、ロッソ自身にも判らなかった。
シーニーと協力し、ベルデは自身の能力で
キラーノイズの出所を追っていた。
様々な音の波を掻き分け、更に奥へと進む。
= 大丈夫か? 無理すんな =
心配したシーニーの声が聞こえてくる。
= 大丈夫。もう少し、奥に進めそう =
= 場所は特定出来そうか? =
= 拠点が動いてるみたいで
なかなか定められないけど、でも… =
= ん? どないした? =
= 何かが、見えて来た…… =
ベルデはそのイメージへ思い切り手を伸ばす。
イメージの先に在る小さな手が
彼女の腕を掴み、力任せに引き摺り込もうとする。
= 志穂っ!! =
= この感覚、覚えがある。
甲斐さん、付いて来て! =
ベルデに迷いは無かった。
必死に自分の腕を掴む小さな手に優しく触れ
彼女はその手の主へと声を掛ける。
= 【其処】へ行きたいの。
私達を導いてくれる? =
小さな手の指し示す場所へ。
ベルデとシーニーの意識は
更に奥へと進んで行った。
いきなり二人の目に飛び込んで来たのは
小学生の虐めの風景だった。
集団で囲み、笑いながら石を投げつける少年達。
輪の中央には座り込んだ小さな少年の姿。
石が当たらない様、頭を抱えて丸まっている。
「…誰や、アレ?」
「……」
「こらーーーっ!!」
二人を擦り抜ける様にして現れた一人の少女が
手に箒を持って虐め少年達を蹴散らしていく。
その少女の面影に見覚えがあった。
「…あの娘、妙子さんだ……」
「え? じゃあ、あのガキ…いや、子供は……」
「晋司の、子供時代……」
みすぼらしい恰好に生傷が絶えない肌。
泥だらけの顔を腕で拭いながら
晋司少年は少女妙子に何かを言うと
ランドセルを背負い、そのまま去って行く。
そんな彼の背中を寂しげに見送る妙子に
ベルデはシンパシーを感じていた。