事件ファイル No.12-13

Rosso 破壊命令

「ベルデ」

空気の変化を感じ取り、シーニーが声を掛ける。
ベルデの腕の中に居た晋司の幻が
突如として掻き消された。

「また別の意識が潜り込んどる。警戒してくれ」
「うん。解った」

シーニーは素早くベルデの許へ移動し
彼女を守るべく周囲を伺っている。

『…れば、良かった』

突如聞こえてくるその声は
確かに少年のものではあるが、晋司とは違っていた。

「この声にも、聞き覚えがある…」
「もしかして…これは、瀬戸?」
「えぇ…。若しくは……」
「阿倍 亮平、なんか……」

ベルデとシーニーは顔を見合わせ、力強く頷いた。
知る必要がある。
水間が心に秘めた【闇】を。
それはきっと、彼が今迄語って来なかった
少年時代に隠されていると二人は考えていた。

* * * * * *

唇の辺りに熱を感じ取る。
誰も居ない筈のこの暗い空間で。
確かに、誰かがそっと唇を重ねてくれた。
感触だけが生々しく残っている。

「…し、ほ……?」

弱々しいロッソの声が室内に木霊し、消えていく。
返事をくれる者は誰も居ない。
唯一人、取り残された空間で
この温もりだけが自分を支えてくれる。

= 俺は…此処、だよ…。志穂……っ =

キラーノイズに脳を侵食され続ける中
それでもロッソは、まだ抗っている。
彼の思いは唯一つ。
もう一度、ベルデに会いたい。
その一念で彼は現状を打破しようとしている。

「う…うぅ……っ」

体が激しく痛む。
脳に負担が掛かったのか、
耳から又 血が流れ出した。

戻りたい。
帰りたい。
あの腕の中に。

「し…ほ……」

意識が遠退く。
束の間の休息になるのだろうか。
それとも、此処で力尽きるのか。
そんな事を薄ら思い浮かべながら
ロッソは静かに瞳を閉じた。

* * * * * *

激しい風が吹き荒れている。
ベルデとシーニーの侵入を拒むかの様に。
シーニーはベルデを確りと支えながら
一歩、さらに一歩 足を進めて行く。

「此処は…?」

荒廃したアパートの一室。
物が雑多に散らかり、その中央に少年は居た。
ボサボサの髪から見え隠れする瞳。
痩せ細った体に残る虐待痕。

「亮平…?」

シーニーがそっと声を掛ける。
少年は一瞬目を大きく見開いたが
直ぐに顔を背けた。

『大人は信用出来ない』

口に出さない彼の心の声が
ベルデとシーニーの耳に届く。

「これがお前の過去か、瀬戸…。
 こんな生活が嫌で、抜け出した先が…
 更なる地獄に続いとったなんてな……」
「甲斐さん……」

シーニーは涙を抑える事無く泣いていた。
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