事件ファイル No.12-14

Rosso 破壊命令

「何で、泣いてる?
 大人のクセに」

亮平少年は冷ややかにそう言った。
此方に顔を向ける事無く。

「どうせ演技なんだろ?」
「演技かどうか、
 ちゃんとこっちを見てから判断したらどう?」

ベルデはそう言うと、亮平に近付き
彼の顔を両手で確りと挟んだ。
そして、真っ直ぐ自分に向き直す。

「その涙の意味を知りたいのなら」
「別に、知りたくない」
「どうして? 裏切られるのが怖いから?」
「!!」
「そうよね。誰だって怖い。
 信じた人に裏切られる事は」
「…誰?」
「私は志穂。この人は甲斐さん。
 未来で私達は出会う事になってる」

正直に志穂は亮平に語った。
彼は信じられないと云う表情を浮かべているが
彼女の言い分を真っ向から否定する気は無いらしい。
静かに、黙ってベルデの話を聞いている。

「俺は、要らない子供なんだ」

亮平はそう言ってベルデとシーニーを見つめた。

「望んで無かったのに出来た。
 仕方が無いから産んだ。
 だけど、俺が居ると…
 自分が好きに生きられない」
「それ、貴方のお母さんが言ったの?」
「あんな奴、母親なんて思いたくない」

亮平はそう言って俯いた。

育児放棄ネグレクト……」
「甲斐さん…」
「例え望まぬ妊娠だったとしても…
 産んだからには責任を持って
 子育てをすべきなんや。
 子供には何の罪も無い。
 …そやけど実際は……」

シーニーはそう言うと、
亮平の頭を優しく撫でてやった。
初めての経験に、彼は目を白黒させて
黙ってされるがままになっている。

「母親一人で子育てするのは大変や。
 そんな事は解っとる。
 けど、子供は一人じゃ生きていけん」
「そうよね…。
 どんな生き物だって、独り立ちする迄は
 親の加護下で生きてるわ…」
「アンタ達が、俺の親なら良かったな……」
「亮平君……」
「俺が居るから恋人出来ないって…。
 俺なんか産むんじゃなかったって…。
 じゃあ何で、俺を産んだんだよ……」
「亮平……」

亮平は泣いていた。
恐らくは初めての事なのだろう。
彼は年相応の子供の様に
大声で泣いていた。
泣いたって現状は変わらない。
そんな事は解っている筈だった。
だが、涙は止まらない。
次から次へと溢れ出て、枯れる事を知らない。

ベルデは亮平を優しく抱き締めた。
自分を生んでくれた母親から
存在そのものを否定された子供。
魂そのものを愚弄され続けた彼が
GvDの誘惑の手を果たして断れただろうか。
だが、それが現実なのだ。
ベルデとシーニーは泣き崩れる亮平を
黙って見守るしかなかった。
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