事件ファイル No.12-16

Rosso 破壊命令

……思い出した。

殴られ、蹴られ、手足をもがれて…
その辺りから『死への恐怖』を感じ出した。
ピークは男共に回され、
嬲られた時だったかもしれない。
男としての尊厳を完全に破壊され
その後はどちらかと言えば…諦めてた。

復讐を。
生きる事を。

又、同じ様になるんだろうか?
これ以上は意識を維持出来ない。
蓄積ダメージは既に限界を軽く超えている。
脳にもかなりの衝撃を受けているだろう。

…御免。
俺、もう…帰れない。
御免な、志穂。
ずっと傍に、そう約束したのに……。
御免…志穂。御免な……。

* * * * * *

様々な体液が付着し、ロッソの体をけがしている。
彼は大の字の状態で意識を失っていた。

「仮死状態に入ったのか。
 しかし此処迄のダメージを食らって
 そう簡単に復活は出来まい」

水間はそう呟き、笑みを浮かべた。
だが次の瞬間。

「何っ?!」

ロッソの体から炎が解き放たれた。
まるで蛇の様に怪しく蠢き
側に立っていた男達や人形ひとがた
問答無用で飲み込んでいく。

間一髪、その場から避難した水間は
モニター越しにこの異常な事態を見守っていた。

ロッソの意識レベルは
彼の様々な生態データを記録する
PCのスクリーン上では【0】になっており
彼が自分で炎を操作しているとは考え難い。
しかし、炎はまるで意志を持つかの如く
彼に仇成す者達を業火に飲み込んでいった。

「どう云う事だ?」

ロッソの特殊能力で炎を扱えるとは
一度も聞いた事が無い。
どちらかと言えば、炎を武器に出来るのは
本来のG-Cell保持者であるベルデだけ。

「…どうやら、この辺で手を打つしかない様だ。
 此処迄手を尽くしたんだ。
 後は志穂が人類を見限り
 怒りの矛先を向ければ良いだけ。
 彼女が人類滅亡の審判を下せば…
 俺の長年の願いが叶う」

炎が少しずつ勢いを失っていく。
その中央に居た筈のロッソには
やはり炎のダメージは一切無かった。

「俺の人生も、漸く終わる。
 無駄に生まれて来た、俺の一生も…。
 皆、道連れだ。
 この惑星ほしの為に、いや……」

水間は何かを呟こうとしたが、何故か止めた。

「そうじゃない。俺は…」

彼は何かを思い出そうとしていた。
忘れてはいけない、大切な事だった筈。
誰かが遺してくれた、大切なメッセージ。

「俺は……」

一体自分は何を忘れてしまったのか。
思い出したいという気持ちと
思う出す事を恐れる気持ち。
相反する二つの気持ちに揺れ
水間は激しい焦燥感に駆られていた。

* * * * * *

ベルデとシーニーがキラーノイズを追跡し
現場に到着した時、其処に水間の姿は無かった。
同様にロッソの姿も見当たらない。
只、無数の焦げた死体が彼方此方に転がっている。

「裁きの炎、か?」

延焼の状態を確認しながらシーニーが呟く。

「晋司……」
「キラーノイズは?」
「もう、発生していないみたい…」
「そうか…。
 鷹矢、無事でいてくれよ……」
「甲斐さん……」

追跡はどうやら此処迄の様だ。
二人は悔しさを噛み締めながら
帰宅の途に就くしかなかった。
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